ところで鶏はどうして抱卵し、卵を温めるのでしょうか。
捕食者から防御することと、温めることにより胚の成長を早め短期間で孵化させる目的があります。鳥は恒温動物ですから、魚や爬虫類のように生みっぱなしで地熱や日光の熱に頼らずに、自らの体温で卵を暖めることが出来るのです。
では、鳥はいつごろから卵を温め始めたのか。現存する鳥類はおよそ1万種。
現在の分岐分類学では、鳥類の全種類1万種は、全て恐竜から進化したものだとされています。ジョン・オストロム(John H. Ostrom)の肉食恐竜デイノニクスの研究から始まる恐竜像の大変革(恐竜ルネッサンス)によって、かつてはトカゲの仲間で冷血動物と思われていた恐竜が鳥と同様羽毛を持ち、恒温動物であった、という説は世界の恐竜学の定説となりました。
恐竜のうち、獣脚類の一群・マニラプトル類に含まれるドロマエオサウルス類やオビラプトル類から鳥類の祖先があらわれた、と推測されています。
たとえば鳥は高所の空気の薄い場所でも酸欠にならないために、気嚢(きのう)という特殊な呼吸器官がありますが、獣脚類の恐竜にも同じ器官があることがわかっていて、これは恐竜の獣脚類と鳥だけに共通する器官です。
そして、マニラプトル類の多くは、「抱卵恐竜」としても知られています。産卵した卵を、ワニやカメなどのように放置したり土の中に埋めて立ち去るのではなく、巣で抱卵して孵し、雛が孵ったあとは給餌の世話をしていたともいわれています。抱卵中のオビラプトルの化石も出土しています。何らかの理由で抱卵中に命を落としたのでしょうが、卵を守るように両腕をひろげてかばっている姿はいじらしく、心温まります。
彼らマニラプトル類こそ、世界で最初に卵を抱いた者たち、だったのかもしれません。大型の恐竜たちは絶滅してしまいましたが、それは抱卵の習性がなく、地球の寒冷化・乾燥化などから卵の孵化率が徐々に落ち、衰退していったのだが、抱卵をする恐竜は子孫をつなぎ、現代まで鳥として生き残ったのかもしれません。だとしたら、何億年もの時を越えて、今も鶏たちは抱卵しているというわけですね。
福井県立恐竜博物館/抱卵するオビラプトル産卵量と産卵周期、産卵曲線