さて、ナナフシ(stick insect /Phasmatodea)というと、小枝にそっくりの姿に擬態して捕食者から身を守っているおとなしい昆虫ですが、独特の姿から子供たちには比較的人気が高い虫です。最近、日本の神戸大学の研究チームが、ナナフシの特殊な繁殖方法についての論文をアメリカの科学誌「Ecology」に発表しました。
それによると、ほとんど翅が退化して移動能力の低いナナフシが、大陸などと接続したことのない孤島にも生息していることから、植物が実を鳥に食べさせ、消化されずに排泄された種子が発芽して拡散繁殖する戦略と同様、鳥に頻繁に食べられているナナフシも、捕食されても卵のみは強力なカラで消化されずにそのまま排泄され、鳥がたどり着いた遠方で卵から孵化するのではないかと推測、実験を行ったところ、実際硬いカラに覆われた植物の種子に似たナナフシの卵は消化されずに排泄。その後孵化したことで、移動能力の低い昆虫が、鳥を媒介にして繁殖地域を広げるという驚きの戦略を行っていることをつきとめました。もちろんナナフシとしては食べられないように枝に擬態しているわけですが、仮に食べられても転んでもただでは起きないぞ、という根性・バイタリティを感じます。先述した巨大ナナフシ、チャンズ・メガスティックスの場合、なんと卵に両翼の羽がついていて、カエデの種子のようにこの羽で風を受け、遠方に卵を飛ばす仕組みを備えているというのですから驚きです。植物からこうした習性を取り入れたのでしょうか。進化の不思議を感じます。
昆虫の特殊能力はあげればきりがありません。ミツバチなどでも、長らく強力な捕食者であるスズメバチと共存してきたニホンミツバチは、圧倒的な攻撃力を持つスズメバチに対して特殊能力を発揮します。巣が襲われた際に何十匹もの働き蜂がいっせいに一匹のスズメバチに群がり、「蜂球」と呼ばれるボール状に固まりとなり、中にスズメバチを完全に封じこめ、羽を震わせて体温を上げ、スズメバチが耐えられない50度の温度にあげてスズメバチを蒸し殺してしまうのです。まるでマンガに出てくる忍法か特殊能力そのもの。一体どういうメカニズムによりそうした連携をしているのか、今もまだ謎のまま、研究が続けられています。
昆虫嫌いの人が昆虫を恐れるのも、もしかしたらそんな超能力の持ち主であることを潜在的に警戒しているからかもしれません。とはいえ彼らの命は、私たちと比べてずっと短くはかないもの。ハエや蚊などの「害虫」の寿命は約2週間ほど。甲虫類も半年も生きられません。セミは地中で何年間も暮らしますが、地上に出てからの寿命はご存知のように半月程度。ほとんどがワンシーズンで死んでいきます。苦手な方も多いとは思いますが、短い夏を精一杯生きるこの奇妙で不思議な生き物をあたたかく見守ってほしいものです。
ナナフシは鳥に食べられて子孫を拡散させる!?~飛べない昆虫の新たな長距離移動法の提唱