贈答用鉢花として大人気のシクラメン(Cyclamen persicum)。布施明が歌い1975年のレコード大賞を受賞した名曲「シクラメンのかほり」で一躍名をはせて、長く冬の花鉢物の帝王的な地位を得ていました。しかし、今世紀に入ってから鉢物シクラメンの人気は低落し、シンビジウム・デンドロビウムと同様に、家庭の鉢花の定番ではなくなりつつあります。
シクラメンの人気がピークの頃は、持ち運ぶのも大変なほどの大型種が飛ぶように売れ、豪華なシクラメンの鉢は裕福な家のシンボルでもありました。
かつては赤か白、ピンク程度の花色しかなかったシクラメンですが、ひだひだのついたフリンジ系やバイカラー、青花系など、次々と新しい品種も出てきて昔と比べてよりどりみどりなのですが、実はもともとかなり栽培管理が難しい植物で、近年の密封性が高くなり、エアコン使用頻度が高まった家屋内では、シクラメンにとっての適度な蒸散や吸水が困難になり、余計にハードルが高くなってしまったこと、主にシクラメンを管理していた主婦層が入れ替わり、志向性や趣味、家にいる時間などが変化したことで手間のかかる鉢物シクラメンを敬遠する傾向が生じたためだといわれています。
ただし、ガーデニング市場の広がりとともに、庭に植える小型のガーデンシクラメンは近年好調で、窓辺のレース越しに咲くシクラメンから、庭先にちょこんと咲くスミレのようなシクラメンを、最近はよく見かけるようになりました。今の子供たちにとってはシクラメンとはきっとそんな小さな庭の花で、かつてはリビングや応接間にデンと鎮座してたなんて聞いたらびっくりするのではないでしょうか。重々しい鉢物のシクラメンが廃れるのは寂しい気がしますが、軽やかに姿を変化させて咲きついでいるシクラメンを見るのもまた、感慨深いものです。
日差しが乏しく、夜間の冷え込みも厳しくなるこれからの季節。いじらしく咲いている花は、それだけで応援したくなりますね。
天文俗談 西村遠里