つい最近の2017年、イギリスのBBCのドキュメンタリーがイルカの集団の奇妙な行動を収め、話題となりました。イルカたちは一匹の小さなフグを食べるでもなく追い回し、風船のように膨らんで逃げ惑うフグをつついたりくわえたりして延々と遊んでいます。あげくに目を半ば閉じてうっとりとしだしたのです。これは、フグを弄んで、海水に希釈されたフグが分泌するテトロドトキシンを吸入し、まるで麻薬を楽しむように快楽に浸っていると推測されています。麻痺成分のあるテトロドトキシンは鎮痛薬としても使われるため、微量であれば高等生物には一種の快楽をもたらすようなのです。
日本では以前からフグ食による中毒があとを絶たず、ここ数年は死者こそ出ていないものの、毎年20人以上の急性中毒患者を出しています。これは素人による不適切な調理で毒性のある部位を取り除ききれなかったため、という説明がされがちですが事実は違います。フグなべは以前からわずかに肝や卵巣を入れ、それによって食べたときにピリピリとする刺激、麻痺作用を楽しむ「食通」がいるのです。イルカがうっとりとしたように、フグ毒は禁断の味覚として、食べるものを魅了してきたのです。かつて昭和50(1975年)年、人間国宝の歌舞伎役者八代目坂東三津五郎は、フグの肝を四人前平らげたあと急性中毒になり死亡しました。プロの板前による提供でしたが、せがむ三津五郎に板前が折れての事故でした。
秋に毒キノコを食べて中毒死する事故も毎年起きますがこれも同じ。知識がなかったり間違って、というよりは、毒キノコと知ってあえて食べての中毒死が実は多いのです。
フグの毒は季節や個体により毒性の強さに差があるため、「これくらいなら」という油断で命を落としかねません。言うまでもないことですが、決して毒のある部位を口にしないように、安全に冬の味覚「ふぐ」を楽しみましょう。
協同組合下関ふく連盟