キョンのなめし皮は、宝飾品やめがね、楽器などの汚れをふき取り、加脂、除脂、塩素吸着の効能がある最高級のセーム革(シカ、ヤギ、ヒツジなどのなめし皮)で、一般的な羊皮よりも上質であるということは、一部ではよく知られています。柔軟性と吸湿性、そして髪の毛の太さの1/150万という超微細でなめらかなキョンの皮は古代中国では水を漉して飲料水を造るためにも使われてきました。日本でも飛鳥時代からキョン皮は輸入され珍重され、「小唐」「古唐」の名で、弓のゆがけ(弓懸、弽、韘 /弓を射る際の特殊な手袋)でも最高級品とされているように、中世までさまざまな武具に使用されてきました。江戸時代になり鎖国となると、キョン皮に代わりニホンジカの皮を使った印伝(セーム革細工品)が主流に、そして明治以降は輸入品を使うケースが多くなり、「鹿皮」というときにそれが何の鹿なのか、年齢や雌雄ほどは気にされていませんが、「小鹿の柔らかい高級輸入革」とされるものは多くの場合キョン皮であるようです。
千葉県や東京都では、房総半島や伊豆大島で急速に増加している(伊豆大島では、人口よりもキョンの数が多いとか)ことを受けて、捕獲駆除事業を始めていますが、捕らえられたキョンは殺処分され捨てられてしまうようです。いすみ市では捕獲したキョンの革や肉の利用を試み始めていて、一般の関心も高まてきています。このまま増え続けて農業被害が深刻になる前に、早いうちに適宜狩猟をし、獲ったキョンは無駄にせずに活用し、地域と生き物との共存の道を模索してほしいものです。
千葉県キョン防除実施計画キョンの有効利用で命の大切さを考える