大きな袋を 肩にかけ だいこくさまが 来かかると
ここにいなばの 白うさぎ 皮をむかれて あかはだか
だいこくさまは あわれがり きれいな水に 身を洗い
がまの穂わたに くるまれと よくよく教えて やりました
(「だいこくさま」より 作詞・石原和三郎/作曲・田村虎蔵)
明治38(1905)年に発表された唱歌「だいこくさま」。古事記の「因幡の白兎(稻羽之素菟)」の逸話をもとにしていますが、ここで皮をはがれた上に、塩水と寒風で傷を悪化させてしまったウサギを、だいこくさま=大国主命が「体を真水で洗った後でガマの穂綿にくるまりなさい」と教えてやります。この逸話は、日本で最初の医療行為ともされ、この伝説と、日本書紀に登場する少彦名尊(すくなひこなのみこと)とタッグを組んだ病の治療指導の記述から、大国主命は医療の守護神でもあります。ただ、歌では「ガマの穂綿」ですが、古事記の原文では、「今急往此水門、以水洗汝身、取其水門之蒲黄、敷散而、輾轉其上者」、つまり「ただちに水辺に行き体を洗った後、そこに生えているガマのおしべの花粉『蒲黄』を採り、敷き詰めてその上に寝なさい」とあり、穂綿ではなく花粉をつけなさい、と指導しています。実際、穂綿には何も薬効成分はなく、蒲黄(ほおう)といわれる花粉には、血流を妨げない優れた止血効果と痛みの緩和作用があるとされ、やけど、切り傷、炎症に効能のある民間薬として、古くから利用されてきました。作詞の石原和三郎もそれはわかった上で、白ウサギの真っ白な被毛とガマの白く輝く穂綿のイメージの重なり・対比を大事にして、内容を改変したのでしょう。
ガマは、長く人々の生活にさまざまな利用価値のある優れものでしたし、現在ではヨシなどとともに、池や川の水質の改善にも役立つ有用植物の一つです。
(参考)
薬草カラー図鑑 (主婦の友社)
日本の童謡・唱歌「大黒様 だいこくさま」種がぎっしり ガマの穂