ハシビロガモ(嘴広鴨 Anas clypeata)は、マガモ属の中型のカモで、北アメリカ大陸、ユーラシア大陸から日本にかけて広く分布します。日本には冬鳥として比較的多く渡来し、各地で見られるカモの一種ですが、そのわりに一般的認知度が低いのは、オスの婚姻色の羽色が、頭部のメタリックグリーンや胴体の白と茶系でマガモに一見似ているために、遠目では見落とされがちだからかもしれません。 しかし、ハシビロガモの他種にないユニークな特徴は、くちばしです。付け根よりも先端部のほうが広くなっていて、まるでスコップのような形のため、英語圏ではshoveler(シャベル使い)と呼ばれています。付け根付近のくちばしの上下の合わせ目はわずかに開いていて、細かな櫛のような歯が生えており、広い先端部を水につけて、しゃくるように水を吸い込み、付け根の櫛の部分から水だけを排出して、水の中の小さなプランクトンや虫の幼虫などを摂取します。その際、プランクトンを効率的に摂取するために水面をぐるぐると回って水の渦を作ります。面を泳ぐ脚の動きで水を撹拌するため、植物プランクトンが水面近くへ動き、それを狙った次の個体が後方へ並びます。そのため何十羽も集まると、大きな渦になっているのがわかります。ハシビロガモの群れが渦を作るさまは、キャンプファイヤーのフォークダンスさながらで、見ていてあきません。