秋が深まると山や里では紅葉や黄葉が進み、大地が赤や黄色の葉で埋め尽くされていくのを目の当たりにします。ここでちょっと目をつむってみてください。そうすると足元でカサカサっとした葉音や、はらはらと落ちてくる落葉が起こす微かな風を感じませんか? つい目に見える美しさ、色の変化に気を取られてしまいがちですが、秋の深まりは耳からも入ってきていたんですね。
≪奥山に もみぢふみわけ 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋はかなしき≫ 猿丸太夫
百人一首でおなじみの秋の歌です。鳴く鹿の悲しい声とはどんな声でしょうか。和歌の文化の中で「鹿が鳴く」には、「牡鹿が雌鹿を求めて鳴く」というイメージが含まれています。
晩秋の静かな山奥に、降り積もった枯葉を踏む足音と、牡鹿が雌鹿を探して鳴く声が響いている情景を詠っています。目に見える枯葉の色彩、耳が捉える枯葉を踏み分ける音と鹿の鳴き声。視覚・聴覚の両方に訴えかけてくる歌になっています。
遠く離れた恋人や妻を恋い慕う心を、鹿の鳴き声の悲しさに重ねているのでしょう。もみじを踏み分けているのは鹿でしょうか、それとも猿丸太夫その人かもしれません。
照り輝く紅葉の美しさ、散りゆく葉の舞いに寂しさをつのらせ、心はさまざまに動きます。紅葉が見頃を迎えればやがて秋はフィナーレへ。移りゆく秋を今すこし楽しんでまいりましょう。
【奈良県の紅葉見頃情報】