豆知識で登山をより楽しく!山の景観を変えた気象の話
2020年10月30日
景観を作る要素を挙げると、岩石の種類や人の営み、そして気象も重要な要素のひとつです。激しい気象現象が、山の表情を変えてしまうことがあるのです。今回は、気象がその山を代表する景観を作った例をいくつか紹介します。
山の景色を変えてしまう台風の影響
この立ち枯れ林は、日本各地に甚大な被害をもたらした1959年の伊勢湾台風によって出現したものです。伊勢湾台風の猛烈な風により、大台ケ原山では大量の木がなぎ倒されました。木の減少により地衣類も衰退し、うっそうとしたコケの森は明るい笹原に変わってしまったのです。伊勢湾台風を発端とした大台ケ原の森林の衰退は現在も進行しているとされています。
台風が山の景観を変化させた例はたくさんあります。山梨県と長野県の県境にある甲斐駒ヶ岳の難所「刃渡り」は、伊勢湾台風が襲来したのと同じ年の台風7号による土砂崩れによって姿を現したそうです。
北八ヶ岳の不思議な縞模様
山腹に刻まれた縞模様は時間の経過とともに山頂に向かってゆっくり山を駆け上がることが観測されています。隣接した木が枯れると地面が乾燥するなどして斜面上方の成木が枯れていく一方で、縞模様の中では若い苗木が成長するためです。縞枯れ現象は大台ケ原の大規模な立ち枯れ林と異なり、森林全体の新陳代謝の役割を担っています。
実に不思議な現象ですが、木が帯状に枯死する最初のきっかけが強風だと考えられています。岩だらけで貧弱な土壌の上に生育した針葉樹が、ある一定の高さになると強風の影響を受けてそろって枯れてしまうというわけです。北八ヶ岳周辺では地形の影響で南西側からの風が卓越しているため、縞枯れ現象は南西斜面に集中しています。
豪雪によって押し下げられた谷川連峰の森林限界
低い森林限界の理由として考えられるのが、このエリアが日本屈指の豪雪地帯であることです。毎年冬になると数メートルもの雪が稜線に積もり、山小屋や避難小屋は屋根まですっぽりと埋まり場所がさっぱりわからなくなってしまうほどです。雪崩も頻発し、高い木が生育しにくい厳しい気象環境なのでしょう。
谷川連峰が雪深い理由は日本海にあります。極東アジアの地図を見ると、大陸から日本沿岸までの海の幅が北陸地方付近で最も広いことがわかります。日本海には暖流が流れていますから、その上を吹き抜ける冬の季節風は海から水蒸気の供給を受けることになります。幅が広い分だけ季節風は多くの水蒸気の供給を受けて、陸地に大量の雪を降らせるのです。また、地形の影響で日本海寒帯気団収束帯というものもできやすく、北陸地方は日本屈指の豪雪地帯となっています。