八十八夜過ぎて、夏は来ぬ。二十四節気「立夏」
2017年05月05日
5月2日は八十八夜。お茶の新芽がぐんぐん伸びて
種蒔きや養蚕など春と夏の端境期は農家の仕事が多く、なかでもお茶の新芽が次々と伸びるこの頃は、茶摘みのシーズンの幕開けでもあります。
そんな八十八夜に摘まれた「新茶」は格別な味わいの縁起物。冬の間にたくわえた栄養成分が豊富なことと、香りの良さから特に喜ばれています。
つい先日、お茶の新芽を摘み釜炒りした一番茶を、今年もいただくことが叶いました。ゆるゆると急須の中でほどけ、薄緑色となる新茶の匂いはこの時期だけのお楽しみ。すっと鼻にぬけるえも言われぬ香気、身心に沁みわたる清らかな味わいは、爽やかで心地よいこの季節そのものを五感で感じるような体験です。
ちなみに5月の和風月名「皐月(早月)さつき」の「サ」には、田植えをするという意味があり、サツキは「田植えの月」の意味とも解されているよう。これから徐々に青々とした田圃風景が日本国中に広がっていきます。
今年も颯爽と到来した初夏の陽気に誘われて
例年立夏のころは晴天が多く、一挙に昼間の気温も上昇し、行楽にふさわしい若葉どき。晩春と初夏の花とされる藤も優雅な房いっぱいに蝶形の花を咲かせ、ときおり吹くそよ風にふわっと揺らぎ、甘やかな香りを放ちます。
優艶な花とは対象的に、太く荒々しい藤のつるから採られる繊維はいにしえの時代は衣ともなり、石や建材を運ぶ綱ともなり、畳のへりにも使われていました。大化の改新で名を馳せた中臣鎌足が、天智天皇から「藤原」の姓を授けられたことからも、藤が極めて重要な植物だったことがしのばれます。
また、5月5日に薬草を野外で摘み集めたという古代の風習「薬狩」の際には、藤の花を頭にさしていたとも伝わります。強くたくましい幹とつる、にょきにょきと現れる奇怪な形状の花の蕾が次第にふくれ、命がほとばしるように、したたり落ちるように匂い開く藤の花に、人々はどこか不思議な霊力を感じていたのかもしれません。
~此花を見れば我が心は天にもつかず地にもつかぬ空に漂ひて、物を思ふにも無く思はぬにも無き境に遊ぶなり~
と綴ったのは、幸田露伴。そろそろ今年も藤見の時期は終わりとなりますが、遅咲きの花がまだちらほらと。高貴な紫色の花房を風に揺らし、見上げる私たちに空中の花園の観を見せてくれるでしょう。