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さぁ八月! 足の速い夏を逃さず満喫したい! 季節は進み秋の予感も……

2022年08月01日

八月になりました。体力が削がれそうな暑さの日もありますが負けていられません。夏を感じて存分に楽しみたい、と思っていませんか? そんな時はお楽しみリストを作ることをオススメします。夏休みの予定が立っている方もまだこれからの方も、数え上げていくと案外時間が無いことに気づきます。八月は夏の盛りのように感じますが、じつは秋の足音も近づいてきているんですよ。さあ、今しか味わえない夏のお楽しみをしっかりとつかまえに行きましょう。
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「かき氷」暑い中でこそ食べよう!

シャーッ、シャーッ、シャーッとハンドルが回り、削られた氷が白く山になっていくさまは、見ているだけで気分が爽快になっていきます。和風の宇治金時の美味しさも捨てがたく魅力的ですが、今は色とりどりのフルーツをたっぷりと使ったかき氷も人気です。かき氷器の普及で家庭でも簡単に楽しめるようになりました。

いつ頃から暑い夏に氷を楽しむようになったのか、と調べてみると意外に古く『日本書紀』の仁徳天皇の記事の中に「熱い月に水や酒に漬けて用いた」と見つけられます。冬の間にできた氷を氷室にしまっておくと夏になってもとけ出さなかったということです。冬にしかできない氷を夏の暑さの中で楽しめる、これは奇蹟に近い感覚だったのではないでしょうか。

平安時代の人々も「かき氷」を楽しんでいたようです。清少納言の『枕草子』に「削り氷(けずりひ)にあまづら入れて、あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる」とあり、金属製の器に甘いかき氷をいれたものが、優雅で上品なものとして述べられています。あっという間に溶けてしまう、その儚さもまた優雅と考えられていたのかもしれません。

現代では冷凍技術も発達して何時でも何処でも、楽しくかき氷を味わえる嬉しい時代です。そんな中であえて天然氷にこだわるお店もあります。理由は時間をかけてじっくりできた氷の美味しさだとか。自然が育んだ味わいの魅力は無二のもの、ということでしょうか。

なんといっても「かき氷」は暑い夏の味方、八月も食べ時です。バラエティ豊かな「かき氷」を存分に味わって過ごす、これもちょっといい夏ではありませんか。

参考:
『日本古典文学全集 日本書紀(2)』小学館
『新版 枕草子 上巻』角川ソフィア文庫

この暑さ! だから嬉しいのが「夕立」です

暑さの中、汗を流している夏の午後、急に空が暗くなって大粒の雨が降り出す、これが「夕立」です。熱気を振るい落とすかのような勢いに、慌てて雨宿りの場所を探して右往左往してしまいます。時には稲光に雷が轟きその激しさに驚かされることもあります。小一時間たてばからりと上がり日が射しはじめたりすると、雨が降ったのがうそのように思われます。「夕立」の後に感じられるのは今までとは違う涼しい気配。暑さから逃れてホッと一息できるありがたいひととき、これが「夕立」の醍醐味なのです。

「夕立」の降りの激しさは「滝落とし」や「篠突く雨」などとも表現されます。「滝落とし」には水量の多さが感じられ、「篠突く(篠竹を突き立てる)雨」には雨の勢いの強さが感じられます。

ほかに「銀竹(ぎんちく)」ともよばれます。目の前が真っ白になるほどの雨なのでしょう。銀の竹にたとえるとはなんとも幻想的な雨ではありませんか。「銀竹」は冬には氷柱(つらら)の意味にも使います。

「雨粒の顔に当りてより夕立」 山下美典

「鏡中に西日射し入る夕立あと」 山口誓子

「ゆふ立の過ぐるや森の夕神楽」 蒼虬

夏の風物としての「夕立」の表情がさまざまに見えてきます。昨今はこの風物としての「夕立」に出会うことが少なくなっているような気がします。なによりも雨が大きな被害になりませんように、と祈りたいと思います。

意外ですか!? 秋は八月に立ちます!

アキアカネとともに秋がくる?

秋の気配は何処に? と「立秋」くらい「歳時記」と実生活の感覚に違和感を覚えるものはないかもしれません。とはいえ生活の中では「立秋」を境にして季節の切りかえが行われていきます。暑中見舞いから残暑見舞いへと挨拶のことばが変わります。空調の効いたデパートに入って暑さをしのぎホッとしていると、目に飛びこんでくる秋のファッションに驚かされることもあります。そう、季節は先取りなのです。

耳を澄ませば夏の真っ只中とはいえ、蜩のカナカナカナカナというちょっと切ない鳴き声が聞こえてきませんか。空を見上げてみましょう、雲が流れていくのが見えませんか。微かな風に乗ってアキアカネが山から下りてくるのもこの頃ではないでしょうか。そんな中でしたら少し涼しい風も感じられそうです。しみじみと秋を感じられる涼しさを「新涼」と呼ぶ頃には、新しい秋の到来が見えてきそうです。

「立秋」も末候になると、ところによっては霧がゆったりと立ちのぼることもあるようです。「歳時記」を見ていくと、八月は暑さの中にも気づかないうちに秋が忍び寄っているのだと気づきます。残り少ない夏は心持ち早足になってきています。後悔のないようにお楽しみリストをもう一回チェックしておきましょう。そうすれば秋を迎える心にも余裕ができるのではないでしょうか。

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古屋裕子

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