さて、そんなカモたちの中で、毎年常に飛来数が多く、もっともよく見られるのがマガモ(真鴨 Anas platyrhynchos)です。カモ類の中ではやや大型の部類で、肉質も最上級のために古くから狩猟対象となり、また肉や卵を得るための家畜化も進められてきました。マガモが人間に飼われるようになり、飛翔能力をほぼ失くして羽色にも変化が生じたのがアヒルです。
昭和の頃よりも、近年になって急激に飛来数が増しているのがヒドリガモ(緋鳥鴨 Anas penelope)です。日本には安定して16万羽以上が飛来し、湖沼にも海辺にも、よく見られる小型のカモです。オスの婚姻色は頭部はレンガのような緋色で、頭頂から額にかけてクリーム色の太いラインが入ります。かつてはその緋色から「緋鳥」と呼ばれていて、そのままそれが種名となりました。 別名で「息長」とも呼ばれますが、これは長く潜水できるからではなく、オスの独特のピュー、ピューと聞こえる高い鳴き声が、古式神道の「息長」と呼ばれる特殊な呼吸方式を連想させるからだと思われます。 日の出の太陽に向かい、清浄な空気を取り込む息長を考案・実践していた古代日本、ヤマトタケルノミコトの時代の伝説の忠臣・武内宿禰(たけしうちのすくね)は300歳前後まで生きたという伝説があります。ヒドリガモの緋色の羽色も、太陽を連想させたのでしょう。 首が短く、全体に華奢なヒドリガモは動きもチャカチャカしていてかわいらしい印象を受けますが、なかなか向こうっ気の強い性格をしています。
ひよこのような愛らしいシルエット。水辺の活発なアイドルキャラ「コガモ」
コガモ(雄)。かわいらしい外見とは裏腹になかなかやんちゃです
コガモ(小鴨 Anas crecca)は、その名のとおり、日本に飛来するカモの中でもっとも小型で、ハトよりわずかに大きい程度のカモです。 頭頂部と頬にかけては明るい茶色、そして両目の周辺から後頭部に向かって、翡翠色の勾玉のような模様が入ります。喉もとから胸元は白地にグレーのドットがちりばめられた水玉模様。体の側面と後背部は青みがかったグレーに、細かく波状の白い斑紋が入り、非常に美しい模様をなします。
オナガガモ(尾長鴨 Anas acuta)は、オスは全長75cmにもなる大型のカモで、翼長も1m近くになります。オスの婚姻色は、頭部と後背部がつやのあるチョコレート色、後頭部に黒いラインがきりっと入り、耳元から胸にかけては純白、側面は銀色にも見えるグレーで、細かな波模様が入ります。嘴は美しいブルーグレー、背から尾羽の上尾筒には流線型の黒い模様が入り、その流れの先端に尾翼が10cm以上もしゅっと伸び、尾長鴨という名の由来になっています。首が他のカモ類よりも長く、全体のカラーリングからも、礼服をびしっと決めた青年貴族のように見えます。 メスは他の多くのカモ類と同様、色は地味な茶褐色ですが、胸から背にかけて、細かくてくっきりとした繊細なキジ模様が広がり、やはりちょっと高貴な雰囲気が漂います。 都市部の湖沼に相性がいいのか、1990年代ごろから顕著に皇居の壕や上野の不忍池などで大集団が見られるようになり始め、近年では都市郊外の住宅地の公園の池や川でも常連の顔になっています。肉質はマガモと比べて劣るため、あまり活発に狩猟されてこなかったようで、そのせいか人のこともあまり恐れないので、是非間近でカッコいいオナガガモをごらんください。