<気象予報士が振り返る「平成の災害」⑦>気象災害(平成21年-平成31年)
[PR]2019年04月22日
日本気象協会に所属する勤続30年以上の気象予報士20人が「気象に関する平成の災害」を振り返り、被害の大きさや、社会的影響の大きさ、防災意識の変化や気象・防災情報の改善のきっかけをもたらした、などの観点から、17の気象災害をまとめました。
このうち平成21年~平成31年に発生した8つの気象災害について解説します。
【平成23年9月】平成23年台風12号
豪雨による土砂災害のようす(提供:国土交通省近畿地方整備局)
平成23年台風12号は、紀伊半島の一部地域で記録的な豪雨をもたらしました。
この影響により紀伊半島の各地で土砂災害や河川の氾濫が発生し、多くの死者や行方不明者が出ました。
当時気象庁では、警報など様々な情報を発表していましたが、通常の警報発表時よりも災害発生の危険性が高いことが住民や地方自治体に伝わらず、的確な防災対応や住民自らの迅速な避難行動に、十分には結びつきませんでした。
これらを教訓として気象庁は、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合に、その危険性をわかりやすく住民や地方自治体等に伝えるために、気象業務法を改正して「特別警報」を導入しました。
【平成24年7月】平成24年7月九州北部豪雨
山国川中流部の浸水状況(出典:国土交通省ホームページ)
平成24年7月11日から14日にかけて、梅雨前線が対馬海峡付近に停滞し、九州北部に非常に湿った空気が流れ込みました。
福岡県筑後地方、熊本県阿蘇地方、大分県西部を中心に記録的な大雨となり、土砂災害や河川の氾濫などによる大きな被害が発生しました。
未明から明け方の避難が難しい時間帯に豪雨が起こったことから、この水害を受けて日没前の明るいうちに避難をする「予防的避難」を呼びかけるようになりました。
また、河川が氾濫した大きな要因として、流木の橋への集積が挙げられたことから、その後一部の橋が撤去され、川沿いの樹木伐採や適切な植林など、流木抑制のための活動が行われました。
【平成26年2月】発達した低気圧による大雪・暴風雪
平成26年2月13日から19日にかけて、発達した低気圧が本州の南岸を北東へ進んだ影響で、西日本から北日本にかけての太平洋側を中心に広い範囲で雪が降りました。
特に14日夜から15日にかけては、関東甲信及び東北地方の普段あまり雪が降らない地域で記録的な大雪となった所がありました。
この大雪により、人的被害や建物の損壊、農業施設の損壊のほか、長期にわたる交通障害が広い範囲で発生し、社会的に大きな影響を与えました。
この大雪災害をきっかけに気象庁は、より早いタイミングで大雪に対する注意喚起をすることを目的に、関東地方及び東海地方等の少雪地において大雪警報・注意報の基準を見直しました。
【平成26年8月】平成26年8月豪雨
広島市安佐南区の土砂災害のようす(出典:内閣府ホームページ)
平成26年7月30日から8月26日までの間、西日本から東日本の広い範囲で大雨による被害が発生しました。
特に19日から20日にかけては、上空で発生した線状降水帯の影響により、広島県では集中豪雨となりました。
この大雨の影響により、広島県では150件を超える土砂災害が発生しました。
広島県では平成11年にも土砂災害の被害を受けましたが、山際の都市開発やそれに伴う土砂災害対策が十分でなかったことなどが問題視されました。
この被害を受け、同年11月12日に「土砂災害防止法」の改正案が成立しました。
【平成27年9月】平成27年9月関東・東北豪雨
鬼怒川決壊により浸水しているようす(出典:関東地方整備局ホームページ)
平成27年台風18号や台風から変わった低気圧に向かって南から湿った空気が流れ込んだ影響で、関東・東北地方を中心に記録的な大雨となり、大雨特別警報が宮城県・茨城県・栃木県に発表されました。
この大雨で、茨城県を流れる鬼怒川の堤防が決壊するなど、土砂災害、浸水、河川の氾濫などが発生し、甚大な被害を受けた茨城県常総市では、避難の遅れなどにより多くの住民が孤立する事態となりました。
この豪雨の最中、各地で避難指示などの防災情報が発表されていましたが、発表タイミングの遅れなど、災害時の情報伝達に多くの課題を残しました。
【平成29年7月】平成29年7月九州北部豪雨
福岡県朝倉市山田地区の土砂災害のようす(写真提供:国土交通省 九州地方整備局)
平成29年7月5日から6日にかけて、活発化した梅雨前線の影響で、九州北部を中心に局地的に非常に激しい雨が降りました。
記録的な大雨となった福岡県や大分県では、大雨特別警報が発表されました。
梅雨前線に向かう下層の暖湿気流と上空の寒気の流れ込みによって大気の状態が非常に不安定になり、積乱雲が発達して線状降水帯を形成し、継続して同じ場所に強い雨を降らせたことが原因でした。
土砂災害や堤防の決壊などによる浸水害が発生し、多数の死者・行方不明者や家屋の倒壊など、多数の甚大な被害が発生しました。
また、同じ梅雨前線の影響で、5日朝には島根県の一部にも大雨特別警報が発表されました。
【平成30年7月】平成30年7月豪雨
平成30年6月28日から7月8日にかけて、梅雨前線や台風の影響で西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となり、期間中の総降水量は四国地方で1800ミリ、東海地方で1200ミリを超える所もありました。
長時間にわたる大雨により、7月6日から8日には1府10県に大雨特別警報が発表され、各地で河川の氾濫や土砂災害などが発生し、200人以上の方が亡くなる甚大な災害となりました。
また、人的な被害のほかにも断水や電話の不通などライフラインに被害が生じ、鉄道の運休など交通障害も発生しました。
この豪雨直後の7月9日には、九州から東海にかけて梅雨明けが発表され、各地で晴れて気温の高い日が続き、被災者やボランティアが熱中症で病院に運ばれる事態となりました。
【平成30年9月】平成30年台風21号
平成30年台風21号は、9月4日に非常に強い勢力で徳島県南部に上陸後、勢力を保ったまま兵庫県神戸市付近に再上陸し、近畿地方を縦断しました。
この影響で、四国・近畿地方を中心に記録的な暴風や高潮に見舞われました。
大阪湾では、第2室戸台風のときに観測した過去の最高潮位を超える329センチを観測し、関西空港の滑走路やターミナルビルなどが浸水する被害が発生しました。
また、暴風の影響により自動車が横転したり、工事現場の足場が飛ばされたりするなど、大阪市内を中心とした都市部でも大きな被害がありました。
この台風の接近に備えて、近畿地方の鉄道では計画運休が行われました。
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