「人新世(Anthropocene/じんしんせい、ひとしんせい)」とは、人類の経済活動によって地球環境や生態系に大きな変化をもたらした地質時代を想定しています。この用語をはじめて使ったのは、フロンガスによるオゾン層破壊の研究でノーベル化学賞を受賞したオランダの化学者、パウル・クルッツェン(1933〜2021年)です。クルッツェンが2002年に英国の科学誌『ネイチャー』で人新世の概念を正式に発表すると、この用語は多様な分野で使われるようになりました。現在、正式名称として定義されていないにも関わらず、経済思想や科学技術の分野でも注目を集めています。
氷河期が終了した約1万1700年前から現在まで続く「完新世」は、温暖な気候と安定した地球環境のなかで人類が大きく発展した時代でした。その時代が終わりを告げ、新しい地質年代に入ったということは何を意味するのでしょうか。地質年代は地層に含まれる化石や岩石の状態から区分しますが、人間の活動が地球に与える影響は恐竜を絶滅させた巨大隕石の衝突と同じレベルの痕跡を残す可能性があると考えられているのです。具体的な例では、二酸化炭素濃度の上昇によるオゾン層や生態系の破壊、森林伐採による動植物の絶滅、プラスチックやコンクリート、放射性物質の地上への拡散などがあります。
クルッツェンは、「人新世」という用語を通じて自分たちの活動が地球にどんな影響を及ぼしているかを自覚して欲しいと発言しています。「人新世」とは「人類の時代」という意味。人類が地球の歴史にどのような痕跡を刻むことになるのか、私たちは「人新世をどう生きるのか」を問われています。
参考サイト
産業技術総合研究所 地質調査総合センター日本地質学会ナショナル ジオグラフィック「地球環境を変える人類の時代」参考文献
斎藤幸平『人新世の資本論』集英社新書