この独特のオオサンショウウオの繁殖行為、特に「ヌシ」となる支配者のオスの攻撃性と寛容性の二面性は他の動物には見られない独特のものです。しかしこの行動原理は、産卵穴において産卵しているメス、いわゆる「産気づいているメス」がいるかどうかで決まってくるようで、産卵メスが産卵穴に入っているときには、「ヌシ」は後から来たメスを攻撃して排除します。また逆に、産卵穴に未授精卵があるときには、他のオスの進入と放精をゆるすが、それ以外のときにはオスが来ると徹底的に排除するなどするようなのです。
つまり、「ヌシ」のオスの優先順位は「受精卵の保護」にあるということになります。この行動は、メスの性フェロモンから発される何らかの物質であるという推測がなされていますが、独特の「ヌシ」による族長的な「保父さん行動」により、多くのオスとメスが子孫を残すことができるようです。
この習性により、オオサンショウウオは太古から絶えずに生き継いできたのかもしれません。
サンショウウオは、ヤモリやイモリと比べてもより生息環境は厳密でデリケートです。氷河期の残した生物相を、南方からの稲の栽培を見事に利用しながら、永続的な水田稲作を中心にした環境を作り上げてきた日本人。そのもっとも繊細な奥の院で、その環境を支えてきたのが氷河期両生類の申し子・サンショウウオなのです。
しかし今、その多くの種が絶滅の危機を迎えています。日本人が丹念に、谷津や山襞の奥まで田に替え、湧き水を利用して灌漑してきた環境は、その上流と接続域に生きる彼らにも楽園でした。けれども今それらの田が廃棄され、また、休耕地が他の施設に転用されることで、複雑でたぐいまれな日本列島の水環境が失われつつあるからです。
彼らを絶滅させることは、私たちが先祖から受け継いできた大切な稲作里山文明が滅び、ひいては日本独自の文化圏の滅びる時なのかもしれません。
参考・参照
日本の動物 江川正幸 旺文社
国立科学博物館、サンショウウオの新種を発見…背中に鮮やかな赤色の斑紋オオサンショウウオの繁殖行動の解析