海上保安官の経験を生かして暮らしに役立つ情報を発信する川崎みささんは、2018年の西日本豪雨の際、まったく備えをせずに自宅で被災。「子供達の被災期間をより過酷にしてしまった」という反省から、災害への備えを学び、「ひろしま防災Jプログラムトレーナー」の資格を取得。そんな、2児のママでもある川崎さんに、ペットボトルの防災グッズとしての活用術を教えてもらいました。
文・写真=川崎みさ
多すぎても困る「防災グッズ」
今回は、防災力を上げるために始めた「ペットボトル活用術」をご紹介します。
西日本豪雨で被災した直後は、備えが足りなかった後悔から防災グッズを買い漁り、あらゆるパターンの災害に対応できるようにしていました。しかし、日々の暮らしでは使わない防災グッズを極端に増やしたせいで、家は防災グッズであふれ、部屋は散らかり、暮らしにくくなってしまったのです。
災害への備えの見直しが必要だと感じ、どうすればいいのか悩んでいた時に思い出したのが、海上保安庁の巡視船で働いていた時の経験でした。
長期航海中のある日、1日4回の食事時間に使っていたヤカンを置く「鍋敷き」が壊れたことがありました。
「鍋敷きの予備はない…熱いヤカンを直接テーブルには置けない…」と、困っていたところに、ボースン(航海科のNO.2で、ロープワークのスペシャリスト)が通りかかり、船に余っていたロープをササッと編んで、鍋敷きを作成。それまで、私は「鍋敷きは買うもの」と思っていたので、とても驚きました。
海上保安庁の大型巡視船は、長期航海に出ると自分のタイミングで港に戻ることはできません。そのため、何か困ったことが起きても「今あるモノでなんとかする」という慣習があるのです。
「ペットボトル」は汎用性が高い
また、海上保安庁では予算も船内スペースも限られているため、代々伝わる乗組員の知恵として、巡視船に積むモノは「汎用性が高いモノ」を選びます。
例えば「ロープ」は、船を係留するときに使ったり、大時化で船の備品が吹っ飛ばないように縛って固定するのに使ったり、編んで鍋敷きに代用したりと、色々な場面で活用できます。
この考えを、防災グッズにも応用できないかと考えていたときに、ふと目についたのが「ペットボトル」でした。
被災後から、わが家はペットボトルのお茶や水を箱買いし、4人家族が一週間過ごせるより少し多い約100リットル分を備蓄するようになりました。
そして「ペットボトル」なら、ロープのように色々な活用法があると気が付いたのです。
空のペットボトル活用術4選
【1】ポリタンクの代用として使う
空の2リットルのペットボトルは、水を溜めたり、災害時に給水車から水をもらったりと、ポリタンクの代用として使えます。2リットルなら水を入れても重たくなり過ぎないので、高齢者や子どもでも持ち運べる便利なサイズ。また、「捨てよう」と思ったときに捨てやすいのも「空のペットボトル」の魅力のひとつです。
【2】凍らせて保冷剤などとして使う
コンビニなどで売っている「冷凍できるペットボトル」は、災害時に色々な場面で活用できます。
・避難所まで食品を運ぶ保冷剤として
・発熱時に首や股の付け根を冷やす
・停電中に冷蔵庫に入れて涼を保つ
・停電時に冷凍庫の保冷剤になる
・溶けたら最後は飲料水にする
災害時は停電になる可能性もありますし、避難時には電気火災対策としてブレーカーを落とすことが推奨されています。そんな時でも「凍らせたペットボトル」を冷凍庫に入れておけば、温度上昇を防ぎ、冷凍食品をある程度守ることもできます。
【3】カイロや湯たんぽの代わりとして使う
寒い時期には、「ホット用のペットボトル」も防災グッズにおすすめ。
ホットのペットボトルの中には、電子レンジOKのものがあるので、レンチンで温めてカイロや湯たんぽ代わりに使えます(過去の災害データを見ても、水道やガスに比べて電気の復旧は早い)。もちろん飲料としても使えます。
【4】非常用の簡易男性用トイレ
断水でトイレが使えない、避難所でトイレが混み合っているなどの場合、空のペットボトルは、簡易の男性用トイレとしても使えます(使用後は、なるべく早く中身を適正に処分してください)。
ローリングストックで普段も役立つ
被災後から、わが家はペットボトルのお茶や水を箱買いするようになりました。なぜなら、防災用だけでなく、日常生活でもペットボトルのお茶や水があれば色々な場面で活用できるからです。
・長時間の外出に水筒と合わせて持ち歩ける
・急な来客でもお茶がパッと出せる
・フタ付きなので倒れてもこぼれない
・お茶を作り忘れた時も安心
・ちょっとしたお礼に渡しやすい
・子どもの習い事の差し入れに
ペットボトルのお茶や水を日常の色々な場面で活用することで、ローリングストック(買って・使って・買い足して)も自然とできるようになりました。
「災害への備え」というと、特別なことをするイメージがありますが、どこでも買えるペットボトルがあるだけでも防災力は上がります。また、西日本豪雨による約1カ月の断水中は、食器を洗えずに困りましたが、ペットボトルなら使い捨てできるので衛生面でも安心。
簡単に、お金をかけずに防災力を上げることができる「ペットボトル」。いざという時のために、数本だけでも備えておきましょう。
川崎みさ(かわさき・みさ)
1985年生まれ、広島県在住。元海上保安官で2児のママ。船舶料理士、整理収納アドバイザー1級、ひろしま防災Jプログラムトレーナー。