今のようなとりどりの色や柄の花ができ始めたのは江戸時代。朝顔を熱心に育てる人たちがいたからです。それは下級武士です。武士は食わねど高楊枝、などといいますがやはり扶持米だけで足りなければアルバイトに精を出さなければなりませんでした。
そこで流行ったのが長屋住まいでもできる鉢植えの朝顔の栽培です。駅に名が残る御徒町は下級武士が多く住んでいたということから、朝顔栽培もさかんでした。これは現在も行われる「入谷の朝顔祭り」へとつながっていくのですから、朝顔人気の根強さがわかります。昨年と今年のお祭りが感染症拡大の影響で行われなかったことは朝顔ファンとしては本当に残念なことだったでしょう。
浮世絵には天秤棒で朝顔を担いで売り歩くようすも描かれ、庶民にも朝顔を育てる楽しみが広がっていたことがわかります。
何よりも変わったもの、新しいものが好きな当時の人々は交配に工夫を凝らし、今までにない形の朝顔を作りだすことに熱中していったのです。その結果多くの変わり種が次々と生み出されていきました。
江戸時代の終わりに出版された『朝顔三十六花撰』は朝顔ブームの集大成ともいえるでしょう。品種改良で作り出された朝顔は千種にものぼるといわれます。その中から選りすぐりの36種を博物画家・服部雪斎が精密に描いています。今ではもう見られない奇妙な形の朝顔がずらりと並ぶのを見ると、刹那的ともいえる流行にかけた当時の人々の熱を感じずにはいられません。
この熱気をくぐり抜けてきたのは、何百年も前と同じように今も咲き続けている丸いロート状の朝顔です。ただし色は青、白、紫、紅の他にも黄色や黒、茶色、と各段に増えました。さらに花にも柄が入るようになって驚くほど朝顔は多彩になっています。
参考:
小和田哲男 監修『大江戸 武士の作法』出版:ジー・ビー
服部雪斎『朝顔三十六花撰』