このように見ていきますと、あれ?それなら人間にも左利きが多い傾向が出てくるんじゃないか?と思われるかもしれません。しかし、人類は既にアフリカのタンザニアで見つかった約180万年前の初期人類ホモ・ハビリスの化石から、右利きが多かったという痕跡が見つかっています。人間は言語能力を発達させたので左脳の機能が優勢になったのではないか、という説もありますが、左脳が右脳に比べて人間は顕著に発達しているということはなく、左脳と右脳のバランスは取れています。
人間に右利きが多いのは、人間が細かい手作業を行うこと、そして手作業で作った道具(槍や斧)で狩りをするようになったからなのではないでしょうか。細かい手作業は自然と右手の使用を多くさせます。そしてその武器を持ち、獲物である動物に向き合います。すると動物は危険回避モードで左半身を向けて防御体制に入るでしょう。そのとき、やりや斧を打ち込みやすいのは、右側から獲物の左側に打ち込むほうが、より的に当てやすく攻撃しやすいことになります。これが、人間が右利きが多くなった理由ではないでしょうか。道具を作ることにより、右手が依り器用に使えるようになり、左半身を向けて回避や攻撃に入る動物に、右手側からの攻撃がより効果的となる。この相乗効果で、人間には右利きが圧倒的に多くなったが、本来動物がより自然に使用する左半身優位の遺伝子も継承されて、そのため左利きも一定数生まれてくる、ということなのかもしれません。
と言っても、です。たとえばギターを弾く際、利き手側が爪弾き、逆の手でコードを押さえます。これは、より複雑な作業であるコード進行は逆の手で、利き手がやってるのは、弦を同じ場所でピンピン爪弾く、比較的単純な作業ですよね。
果物をむく場合も同じです。ナイフを持った利き手は同じ位置と角度を保つことに専念し、微妙に角度をあわせながら果物の本体をまわしているのは逆のほうの手です。あまり使っていないはずの利き手ではない手が、実は無意識レベルでは非常に細かい繊細な作業をしているわけですね。両手の連携の妙、というのも、利き手問題と同様に不思議なものだと思いませんか?
数で圧倒的な右利き中心の社会を変えるということは無理でしょうが、少なくとも学校や職場の作業や勉強で、左利きが不利になることのないような配慮は求めたいものです。「左利きの日」に、右利きの人が左利き用の道具をちょっと試してみるというのも興味深い体験になるのではないでしょうか。
(参考)
カンガルーは左利き、有袋類の利き手研究Famous Left-Handers(著名な左利きの人物):http://www.indiana.edu/~primate/left.html