柿の語源は「赤き実」から来ているといわれます。
柑橘系の果物や、あるいはバラ科のリンゴや梨、またはブドウなどの甘酸っぱさと爽やかな香りを特徴とするフルーツとは比べると、酸味がなく、熟すと果実がじゅくじゅくにやわらかくなるなど、トロピカル系のフルーツに近い食味を特徴としています。酸味のある果物が、未熟な種子を守るために強い酸味で食害を防ぐのに対して、柿はタンニンに由来する苦みで食害を防ぎます。これが食べると渋い、渋柿の原因です。
現在日本には1000種に及ぶ品種がありますが、そのほとんどが渋柿です。もう少し詳しく区分すると、柿には完全甘柿・不完全甘柿・完全渋柿・不完全渋柿の4種類があります。かつては、完全渋柿と不完全渋柿しかなかったのです。人間が栽培するようになるまで、渋の原因である水溶性タンニンを欠いた甘い柿は、未熟なうちに食害を受け、絶滅していたのでしょう。
現在の神奈川県川崎市麻生区に「柿生」という地区があります。川崎市に編入される以前は柿生村と言いました。その名の由来は、かつて鎌倉時代初期1214(建保2)年、それまで柿といえば渋柿のみだった時代に、星宿山蓮華院王禅寺の山中で自生しているものを偶然に発見突然変異の甘柿(現在の区分でいえば不完全甘柿)「禅寺丸柿」が発見されたことによります。
日本初の甘柿といわれ、江戸時代には「江戸の水菓子」として大いに好まれ、幕末、ペリーに同行した植物学者J・モローによってアメリカ、ヨーロッパに、そして世界に広がり、柿の学名「Diospyros Kaki」の名の元となりました。日本では昭和の前半ごろまでは甘柿=禅寺丸でしたが、現在の甘柿の大半を占める「富有」「次郎」などのより大きく甘い柿が大量生産されるようになると、一般の流通からは姿を消していきました。
ところが、柿で極上品とされるのは、実は完全渋柿。「平核無(ひらたねなし)」と「四溝(よつみぞ)」は、脱渋したあとの味わい、多汁でやわらかい果肉が極上と評されます。身近であるためにあまり意識されていませんが、実は滋味に深く広い味の世界を展開しているのが柿です。
近年ではアメリカガキといわれるパーシモン(persimmon)の柔らかい実を使用した柿プティングも人気の兆しだとか。古風なイメージで若者からは敬遠されがちともいわれますが、これから柿が「来る」かもしれませんね。
週刊朝日百科「植物の世界」 (朝日新聞社)
都道府県別初霜・初雪の時期主な甘柿の品種と特徴