秋から冬にかけて、バンは単独で行動しますが、オオバンは冬に渡ってきたカモに混じったり、開けた湖や川でオオバンのみの大集団を作って生活するため、人の目につきやすくなります。オオバンは水にもぐるのが得意で、大食漢のため水面下の水草を千切り取ってよく食べます。周囲のカモたちはオオバンが水草をくわえて戻ってくると、回りを取り囲んで水草を奪い取ってしまいます。カモはかなり気の強い性格をしていますが、オオバンはおおらかな性格なのか、取られてもあまり気にしないようです。反面食べるものと採餌方法がかぶっているカンムリカイツブリには、たびたびキレられて追い回されていますが、これもあまり危機感も感じず、ちょっと逃げるふりをして受け流しているのもよく見ます。
そしてカモも北へと飛び去ったこの4月の始め頃から、オスメスがペアとなって繁殖期に入ります。オスがガマやアシ、イグサやマコモなどの茎を集め、メスが水辺の草陰の水面に、丸い浮き巣を作ります。10個前後の卵を次々に生んで、雌雄で交代で抱卵します。しかし卵の数が多くなると面倒になるのか、別のペアの巣に卵を持って行き、そこに托卵してしまいます。一応そちらの親鳥も数を数えてはいるようですが、やはりめんどうになると別の巣に持っていってしまったりするので、わけがわからなくなるのか数が結果としてあうことになるのか、どうにか収まるようです。約3週間ほど抱卵すると雛がかえります。孵った雛は、親とは似ても似つかず、顔全体が真っ赤な毛色で、頚部にかけては黄色の長い飾り羽、胴体はふわふわの灰色といういでたち。やがてすぐそれは生え変わり、地味目の黒っぽい色になるのですが、赤い頭の雛たちが、親鳥に必死にくっついて泳ぐ姿は、カルガモともまたちがうかわいらしさがあります。
給餌もオスメス二羽で行い、また4月から9月頃までの繁殖期間中、数回にわたって抱卵と育児を繰り返すため、その年に生まれた兄・姉たちが、雛の世話をして手伝う大家族的な習性を持ちます。しかし、そのようにして成鳥が協力して育てる割には、雛の生存率は高くなく70%以上は死んでしまうようです。
手賀沼や印旛沼などの繁殖地で何度か給餌の仕方などを見ていたところ、とうてい雛には食べられないような大きな水草をもってきてポンと渡し、雛が食いちぎれずに水中に沈めてしまい途方にくれている光景を目にしました。この全体におおざっぱな育て方が、もしかしたら生存率を下げているかもしれません。
ただし、オオバンの亜種であるアメリカオオバン(額の額板が赤くなる地域特性があります)では、雛の一羽だけを大事にして他の雛を無視し、ときに食い殺してしまう、などという観察例があるとかで、オオバンの育児はかなり残酷だという情報もあったりするのですが、筆者が知る限りそんな様子は見たことがなく、基本的に雛はかわいがって育てていました。餌の数や環境などの育児環境により、親鳥の行動にもかなり幅があるのかもしれません。
身近な野鳥となったオオバンの子育てが観察できるようになる季節です。是非探して観察してみてください。おおらかでちょっととぼけたこの愛らしい鳥のファンになるかもしれませんよ。
原色 野鳥 (柳澤紀夫 家の光協会)
渡り鳥飛来状況調査 2018年秋~2019年春