さらに掘り下げれば、「みささぎ」という言葉は「身、捧(ささ)ぐ」が由来とも考えられ、いけにえの子羊を神前に捧げて焼く古代ユダヤの燔祭(はんさい)を想起させます。燔祭の起源は、ヘブライ人(イスラエル人)の始祖アブラハムが、わが子イサクを神に捧げて殺そうとした「イサクの燔祭」とされ、聖なる存在が身を捧げて火にかけられ、炎とともに天へと合一するというイメージは、実はどんど焼きにも共通するのです。「ミサキ」がイサクとも関係するとすれば、神の伝令であるはずの「ミサキ」が、全国各地で不幸な死を遂げた亡者の怨霊だとか、船幽霊だとか、祟りなす地縛霊的な悪霊だとする信仰があることも説明がつきます。イサクは実際には殺されず、寸前ですくわれていますが、もし親愛する父に本当に屠られていたとしたら、それは大怨霊にもなるだろうと想像できます。
そして私たちは、紅蓮の炎に焼き尽くされ、灰の中から復活するとされる鳥の存在を知っています。エジプトではアオサギとも重ねられた太陽の母鳥ベンヌ(Bennu)、そしてギリシャの伝説に登場するポイニクス(φοῖνιξ)、すなわちフェニックス=不死鳥です。
遠い古代、はるか西の果てのエジプトで発祥した太陽神の死と再生の神話体系は、中東のユダヤ教、ゾロアスター教、キリスト教の教義の基礎となり、やがて日本にも伝わりました。ゾロアスター教の葬送は鳥葬で、ここにも鳥が深く関わります。
太陽神の化身もしくはシンボルとしての鳥の精霊の燔祭は、日本に伝わると当初は聖なるミサキ(ミササギ)ととらえられていましたが、時代が下るにつれ、豊作や健康祈念の祭りへと変質し、主役である鳥の存在も、素朴な鳥追い行事へと変化していったのではないでしょうか。
(参考・参照)
先祖の話 柳田國男 筑摩書房
体育・スポーツ史概論 木村吉次 市村出版
遊戯から芸道へ:日本中世における芸能の変容 村戸弥生 玉川大学出版部
日本と世界の小正月行事「どんど焼き」調査データ一覧表野井区のどんど焼き茅原のトンド