
「2011年3月11日の東日本大震災から1000年ぶりの『大地変動の時代』に入った」
そう言うのは、京都大学名誉教授で地学の第一人者・鎌田浩毅さんだ。
「3.11」以降、首都直下地震や南海トラフ巨大地震などが誘発されることも懸念されているが、さらに、こうした地震によって誘発される可能性があるのは火山の噴火だという。
著書『災害列島の正体――地学で解き明かす日本列島の起源』(扶桑社)から、巨大地震と火山の関連について一部抜粋・再編集して紹介する。
「大地変動の時代」は火山にも
2011年3月11日に起こった「東日本大震災」によって、日本はいつどこで巨大地震が起きてもおかしくない「大変動時代に突入した」と述べた。
しかし「3.11」が日本列島にもたらした影響はそれだけではない。「3.11」のような海溝型の巨大地震が発生した場合、数年以内に活火山の噴火を誘発することがあるのだ。
その原因として考えられているのは、地盤にかかる圧力が変化した結果、マグマの動きが活発化するというものだ。実際に「3.11」以降、いくつかの活火山の地下では活動が大きくなり、地震と噴火が増加している。
例えば浅間山、草津白根山、箱根山、焼岳、乗鞍岳、白山など、20個ほどの火山の地下では、東北での地震発生直後から小規模の地震が急増した。
2016年の熊本地震では
また、2016年4月に起こった熊本地震では、マグニチュード(M)6.5の地震のあと、M7.3の本震が発生した。
どちらも震度7だったのだが、震度7の揺れが繰り返し同じ地点で起きたのは、気象庁の観測史上初であり前代未聞の災害だった。
さらにこの後、熊本と大分の中間にある阿蘇山が噴火している。
2018年1月には、草津白根火山で噴火災害が発生し、1名が亡くなっている。このようにM9.1の東日本大震災が起きたのちの日本列島では、それ以前に比べると明らかに火山活動が活発化している。
地震のち噴火、平安時代との相似点
20世紀以降に、M9規模の地震は世界で8回ほど起きている。そのほとんどで、地震発生後、遅くとも数年から十数年後までに震源域近くの活火山が大噴火しているのだ。
実際、日本でも過去に起きた巨大地震のあとに火山活動が活発化した記録が残っている。
たとえば「3.11」との類似性が指摘されている貞観(じょうがん)地震(869年/震源・宮城県沖)では、2年後に現在の秋田県と山形県の県境にある鳥海山で噴火が起きた。
また、46年後の915年には青森県と秋田県との県境にある十和田火山が大噴火し、その火山灰が東北地方を覆った。
ここで注目すべきは、貞観地震が起きた平安時代と21世紀の現代の、地震と噴火の発生状況が類似していることである。
日本には活火山が111あると言ったが、活火山の定義は「1万年以内に噴火した火山」である。火山であっても1万年より長い間噴火していないなら、活火山ではない。
つまり111の火山は1万年より新しい噴火の証拠があったということである。
そして注意すべきことは、これら111の活火山のうち、20の火山が噴火スタンバイ状態にあるということである。
巨大地震と噴火の直接的な因果関係はいまだに不明な点があるが、この20個の活火山以外の噴火がはじまる可能性も考えなければならないだろう。
「3.11」で生じた地盤の歪みが元に戻るには何十年もかかる。今後の数十年間はすべての活火山を厳重に監視する必要がある。
鎌田浩毅
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。理学博士。通産省(現・経済産業省)を経て1997年より京都大学大学院人間・環境学研究学科教授。京大の全学向けの講義「地球科学入門」は毎年数百人を集め、「京大人気No.1教授」としても名高い。2021年より京都大学名誉教授および京都大学経営管理大学院客員教授。専門は火山学、地球科学。