
コメの新品種が次々と市場に送り込まれるなか、2018年に本格デビューした県産ブランド米・雪若丸は、着実に存在感を増している。背景にあったのは、2023年の猛暑をきっかけに活発となった消費者の「新しいコメ選び」だった。
東京・目黒区のコメ店スズノブ。
無農薬米や特別栽培米にこだわり、えりすぐりの産地や生産者の70を超える銘柄を取り揃えている。
「1キロ白米と5キロ、五分精米ですね」
「まだあったかい」
店を営むのは五ツ星お米マイスターの西島豊造さん。新品種のブランド戦略会議にも参加するコメのプロだ。
この日、店を訪れた女性客は、子どものお弁当用にと、「おにぎりに合うコメ」を買いに来た。
西島さん「山形の雪若丸。ちょっと粒感は強くなるけど」
買い物客「コメが大きくなるということですか」
西島さん「食感的にチャーハンやカレーライス的になる。でも握りやすさは格段に上がってくる」
買い物客「少し時間が経ってもおいしい」
2018年に本格デビューした山形県のブランド米「雪若丸」。
全国から厳選されたコメが集まる西島さんの店でも、最も売れる商品のひとつになったという。
(買い物客)
「じゃあ、これを4キロ。白米を」
ブランド米をめぐっては、近年、全国でさまざまな新品種が生まれ、コメ業界は「戦国時代」ともいえる状況になっている。
そのさなかに産声を上げた「雪若丸」を、西島さんはこう評価する。
(スズノブ・西島豊造さん)
「いろいろな産地から新品種がこの10年、毎年出ていて、ほとんどの品種が消えている。その中で生き残った雪若丸は強いと思う」
こうした中、生産現場を襲った2023年の猛暑。
「一等米」の比率は全国平均で61.2%と過去最低になるなど、生産現場に大きな打撃を与えた。
山形県産米でも、高温に強いとされる雪若丸は87.3%と高い一等米比率を維持した一方で、つや姫・はえぬきは全国平均を大きく下回る結果となった。
約100ヘクタールの田んぼでコメを育てている天童市・おしの農場でも、今までにないコメの出来に戸惑いを隠せずにいた。
(おしの農場・押野和幸社長)
「これが今年のはえぬき。私たちが出荷しているはえぬきは、白いものが入っていたり、半分白かったりという感じで、良くない」
「雪若丸」はほとんどが一等米だったのに対し、作付けの半分近くを占める「はえぬき」は8割以上、「つや姫」も2割から3割が二等米と格付けされた。
(おしの農場・押野和幸社長)
「びっくりしているし、一生懸命作ったつもりだが、天気には勝てないと実感している」
こうした生産現場の声がある一方で、大消費地・東京では山形県産米への評価は下がっていない。
(スズノブ・西島豊造さん)
「山形県産米は出来が悪いと皆さん言っているが、全国から見ると決して悪くない。おいしさも失われていないと言い切れる。今年一番のトラブルを持ってしまったのはコシヒカリ」
コシヒカリの一等米比率を見てみると、全国平均で50.2%。新潟産に限るとわずか5%という結果。
トップブランドのこうした状況をうけ、消費者の「コメ選び」に新たな動きが出ているという。
(スズノブ・西島豊造さん)
「脱コシヒカリで新しいコメのおいしさを求めましょうという人が増えてきた。来店するときに『今年のコメは出来悪いんでしょ?』という情報が入ってきているのでおすすめできない。『それに代わるお米を教えてください』と言われれば、つや姫・雪若丸、新潟であれば新之助とかをすすめる」
“しっかりした粒感”や“食べ応え”が特徴の「雪若丸」。
デビュー以来、店で取り扱ってきた西島さんは「客に勧めやすいコメ」と高く評価している。
(スズノブ・西島豊造さん)
「揚げ物やお肉・冷凍ものなど、若い世代が好んで食べる食文化と雪若丸は相性がいい。これからコメを食べていく世代が好きな食感のコメ」
県は、高温への強さが改めて評価された雪若丸の増産を決定。
天童市・おしの農場でも、雪若丸が7%程度増える見通しで、期待も高まっている。
(おしの農場・押野和幸社長)
「こんなにも高温に強い品種だったのかと去年の猛暑で改めて感じた。増やせるのは本当にありがたい。異常気象が続きそうなので、雪若丸にはものすごく期待している」
しかし、温暖化や異常気象を見越して品種の開発を続けてきたのは山形だけではない。
隣県の新しいブランド米の一等米比率を見てみると、新潟の新之助が94.9%、秋田のサキホコレが93.4%。
近年デビューした品種の多くが、おいしさだけではなく高温への強さも併せ持っているのだ。
まだまだ続くブランド米の戦国時代。
西島さんは「雪若丸」について、“名前を覚えてもらうだけの時期は過ぎた”と強調する。
(スズノブ・西島豊造さん)
「雪若丸の知名度はある。ただ、食べたことがないという人はまだいる。どんな特徴かも伝わっていない。県も全農も、発信をしているような感じはするが、ちゃんと伝わっていない」
そのうえで、全国からブランド米が集まる大消費地では、特に「どんな場面で・どんな食べ方がおいしいのか」、もっと具体的に伝える必要があると指摘している。
(スズノブ・西島豊造さん)
「消費者にとって使い方・食べ方の提案までしてくれると、もっと買いやすい・受け入れやすい。若い人・コメを新しく食べる人にどう提案していくか。雪若丸はもっともっと育つ。これからのコメ」
雪若丸は「勝てるコメ」になれるのか。市場での戦いは続く。