冬のこの時期、すっかり葉が落ちてむき出しになった落葉樹(サクラやミズナラ、カシワ、クワなど)の枝に、マリモを大きくしたような、ボール状の不思議な植物がくっついているのを見かけたことはありませんか? それがヤドリギ(宿木、mistletoe/Viscum album L. var. )です。全国に自生し、保与(ほよ)、 飛び木、飛び蔦、冬青など、さまざまな別称があります。 ヤドリギとは、広義にはビャクダン目に属するビャクダン科・オオバヤドリギ科・ミソデンドロン科の常緑の寄生植物の総称で、狭義には、クリスマスリースに使用されるセイヨウヤドリギ(European mistletoe/Viscum album L. )のこと。ボール状になる日本のヤドリギもセイヨウヤドリギの亜種で、日本でもかつてはこの一種のみを「ヤドリギ」と呼んでいましたが、ヤドリギがビャクダン目に分類されるようになり、同じビャクダン目の寄生植物全体のことも指すようになりました。日本にはこの他にも小型のシャコバサボテンかヒノキの葉のようなヒノキバヤドリギ(Korthalsella japonica)、つやつやした照葉樹のような葉をつけ、大きな木本に成長してしばしば宿主を枯らしてしまうオオバヤドリギ(Scurula yadoriki)、モミや松などの針葉樹に寄生するマツグミ(Taxillus keampferi)、冬に葉を落す落葉種で実の目立つホザキノヤドリギ(Hyphear tanakae)などが分布しています。 晩秋から冬にかけて半透明の球形の美しい実をつけ、それを冬の渡り鳥であるレンジャクやツグミ、留鳥のヒヨドリなどが好んでついばみます。セイヨウヤドリギの属名Viscumは、「とりもち」という意味で、甘い実はつよい粘り気があり、果実を食べた鳥が排泄すると種子をふくんだ糞はトリモチ成分で枝にくっつき発芽、宿主の枝幹に吸器(haustrium) と呼ばれる特殊な根を導管まで深く食い込ませて水溶性のミネラル分(マグネシウム、鉄、カリウム等)を宿主から得て成長します。その反面葉緑体を持ち光合成も行なう(光合成能力を失ったアメリカヤドリギもあります)ことから、「半寄生植物」と呼ばれています。 葉は2枚双生でワンセット、これが二叉にどんどん分岐していき、球形を形作ります。実は分岐部分の腋につきます。5~6ミリの半透明の宝石のような実で、日本の自生種は淡黄色から鮮やかなオレンジですが、ヨーロッパ種は白い実をつけます。 この白い粘り気のある実が動物の精液の象徴となり、古代ヨーロッパで信仰されたケルトの信仰では、聖なるオークの木(オークというとはじめて和訳された当時「樫」と訳してしまったため樫と思われがちですが、どちらかといえば楢の木に近く、葉は柏に似た落葉高木)に寄生したヤドリギをオークの神の「生殖器」ととらえ、このヤドリギをドゥルイド(ケルトの祭司)が金のなたで切り落として冬至の太陽の復活の儀式に用いました。