千葉県匝瑳市椿の星神社では矢で射貫くのではなく、子供たちが手で的を突きぬく、という変わったオビシャ神事がおこなわれています。この神事は、日本に弓矢の伝わる以前、縄文時代よりも以前からのものだとの説があります。匝瑳市の椿という地は、かつてここに椿海という広大な内湾が存在しており、それはそこに巨大な椿の木が生えていて、しかし木に鬼が住み着いたために鬼を弓で射て追い出し、フツヌシとサルタヒコにより木が引き抜かれた跡だ、という神話が伝わる地。東の果ての地に生える巨木。扶桑の木の伝説と重なります。
さらに、「隋書倭国伝」には、「毎至正月一日必射戯飲酒」(正月一日に至ると、必ず射的競技をし、酒を飲む。)と記され、オビシャ神事とおぼしき行事が古代日本でなされていたことがわかります。
つまり、中国で漢の時代に出来上がり、やがて後代の飛鳥時代もしくは奈良時代に日本に伝わった十日神話より前に、日本、それも関東の房総半島には、オロチ族の神話が伝わっていて、オビシャ神事が受け継がれてきた、という可能性があるのです。陰陽道の賀茂氏や物部氏がこの地に積極的に関与していたのは、当時から房総半島=扶桑国、と考えられていたから、ということになります。古代の東アジア一帯の信仰において、房総は実際に義和の住む曜谷であったと思われていたのではないでしょうか。
細々と房総や埼玉、茨城、神奈川などの小社で受け継がれる「オビシャ」神事。実は壮大な歴史ロマンとミステリーがこめられた興味尽きない神事なのです。
現在千葉県内では各地でさまざまなオビシャが行われています。1月中旬から2月中旬にかけてはオビシャ神事が見られるチャンス。是非見学に行かれてみてはいかがでしょうか。
(参考)
「苗族民話集 中国の口承文芸2」(村松一弥 編訳 平凡社)
「中国神話伝説集」(松村武雄 編 社会思想社)
オビシャ