2月22日は「猫の日」。今、奄美群島がネコを巡ってゆれています!
トピックス
今日、2月22日は「ネコの日」。「ニャンニャンニャン」のネコの日の認知度もすっかり定着しましたね。昨年12月に発表された調査によると、全国のネコの飼育総数は953万匹、イヌの飼育総数は892万匹と、1994年の調査開始以来はじめて、ネコがイヌを上回りました(日本ペットフード協会調べ)。ネコ関連商品や映像作品などは増加の一方、ネコカフェやネコの島も相変わらずの人気ぶりで、ネコブームの盛り上がりは衰える気配がありません。
しかし、その一方で都市化が進む環境の中で、野良猫と人間社会との軋轢も未だに解決されないまま。都市部だけではありません。鹿児島県の奄美大島と徳之島では、ある特殊な事情から、野良猫たちが大ピンチに陥っています。
「ネコの日」に考えてほしい、南の島のネコたちの受難
奄美大島の猫たちが危機⁉
奄美群島は、行政上は鹿児島県に属しますが、文化的には琉球(沖縄)文化圏に属し、九州と沖縄諸島の間の、亜熱帯の海に浮かぶ島嶼群です。もっとも大きな中核の島である奄美大島は、「東洋のガラパゴス」の異名を持っており、奄美大島と徳之島以外には生息しないアマミノクロウサギをはじめ、やはり奄美固有種のオオトラツグミ、奄美群島と琉球諸島にしか生息しないアマミヤマシギ、ルリカケスなど、希少生物が多く生息する特異な島です。
多くの希少野生動植物を有することから、奄美・琉球がユネスコ世界遺産センターの世界遺産暫定リストに追加記載されることとなり、世界遺産登録への気運が高まっています。しかし、このことから、奄美群島、特に奄美大島と徳之島に生息する野良猫が、その希少生物の捕食被害などの生態系への害をなす外来生物として、早急な駆除対象として槍玉にあがることとなってしまいました。世界遺産登録に前のめりな地元行政や環境省では、捕らえた野良猫を殺処分する方向性を打ち出し、物議をかもしているのです。
奄美大島の野良猫の数は600~1200匹ほどいると推測されています。そして、野良猫が、希少生物のいる原生林へと入り、特に動きの鈍いアマミノクロウサギを捕食し食害を与えているとされ、今年の夏に控える世界遺産登録のためには、何としてもすぐに「駆除」したい対象のようです。
けれども、徳之島では既にTNR不妊手術(Trap=捕獲 Neuter=不妊去勢手術 Return=元の場所に戻す。手術済みの印として耳先をさくらの花びらのようにV字カットする)が先行して行われ、現在では90%以上の野良猫が避妊済みとなっているため、これ以上増えるとは考えにくく、奄美大島でもTNR不妊手術をほどこし、譲渡斡旋をするなどで野良猫の数を制限することを動物保護団体や獣医団体が提言している状況です。そのような状況下にもかかわらず、「アマミノクロウサギを殺しているネコを今すぐどうにかしなければ滅びてしまう!」と言わんばかりの殺処分計画ですが、本当にそうなのでしょうか。野良猫は、本当にアマミノクロウサギなどの希少生物を絶滅に追いやるほどの食害をもたらす存在なのでしょうか。
はるか昔から島で共存してきたネコとアマミノクロウサギ
アマミノクロウサギ。かつては島中に生息していました
奄美大島では、江戸時代の嘉永3(1850)年の薩摩藩士・名越左源太の「南島雑話」において、江戸時代当時の島の自然や人々の生活が詳細に記述されています。
それによると、島にはネコ(地元の方言でマヤ)が飼われている。というのも、人家にネズミが入り込み、そのネズミを狙ってハブがやって来るので、ネコにネズミを獲らせる為に大事にされているとのこと。もちろん現在のような室内飼いではない時代です。ネコは自由に家の外と戸外を行き来し、特にオスネコは人家に居つかず、山(森林)に入っていき、野性化して生活している、と記されています。とすると、少なくとも江戸時代には、多くのネコが山の中に入って生活し、当然アマミノクロウサギなどの野生動物を捕食していた、ということになります。
アマミノクロウサギは、1920年代くらいまで、人里に下りてきて畑の作物を荒らす害獣で、また、盛んに人々によって狩猟され食べられてきたほど数多く生息していました。
アマミノクロウサギは、従来は秋から冬にかけて1~2頭程度の子供しか残さず繁殖力が低い、といわれていましたが、ここ5年ほどで数倍かそれ以上の生息数が増えている、という地元の証言もあり、奄美動物保護センターの調査したところによると、想像していたより繁殖能力が高いことが分かってきました。
つまり、ネコとアマミノクロウサギは、もう何百年間も、ともに島の環境で共存し共栄してきたと推察されます。
「奄美は多様な生態系を維持した貴重な自然遺産である」と言います。しかし、実際にははるか以前から人間により外来のクマネズミが繁殖し、「手付かずの自然の生態系そのもの」ではないのです。これは決して奄美大島の価値を貶めているわけではありません。そのようにして人間と自然が折り合い、溶け合い、ともに生活してきたという歴史が事実であり、そしてそうした環境下で、多くの希少種が生き延びてきたことが、貴重なことであり大切だということです。
奄美のネコは山に入りますが、そこには毒蛇であるハブがいて、かなりの数のネコがその毒にやられて命を落としているらしいことも判明しています。ハブがいて、ネコがいて、ネズミがいて、アマミノクロウサギがいる。その、いわば「里山的自然環境」の中で均衡が取れていたのが、近代以前の奄美の姿でした。
クロウサギをもっとも殺しているのは…
マングース。ハブを駆除するはずが…
アマミノクロウサギが激減した理由の一つに、戦後の森林開発と、ハブの駆除を目的としたマングースの移入があります。奄美大島は島の70%が森林ですが、その森林のうち原生林はわずか3割。あとの7割は植林による人工林です。原生林に暮らすアマミノクロウサギは、このマングースにより捕食されたと考えられます。その証拠に、マングースの駆除作業がほぼ完了した現在では、クロウサギの数と生息域は次第に増えてきています(※1)。そして、それに伴い次に脅威となっているのは、島内に8万台以上あるといわれる自動車によるロードキル(交通事故死)です。ここ数年でアマミノクロウサギの交通事故確認件数は数倍に跳ね上がっているのです。(※2)。
既に、世界遺産登録前の呼び込み効果で島内の観光客が増えたことで、クロウサギのロードキルが増加傾向にあります。世界遺産に登録されることで、更に観光客が増え、クロウサギの轢死が増えることは充分考えられます。
まず力を注ぐべきは、野生動物が交通事故にあわないよう、アンダーパス(道路を横切る地下トンネル)やオーバーパス(道路上に渡した通路)を各所に設ける等の措置なのではないでしょうか。
奄美大島でのアマミノクロウサギの生息数は、2003年時点で2000~4800頭とされていて、「ノネコ捕獲事業」もその数字から計画されていたものですが、最近朝日新聞社が環境省に情報開示請求をして判明したのは、2015年時点での推定生息数が1万5千~4万頭である、ということでした。12年の間にクロウサギの数は約10倍に増えていて、現在はもっと増えていると予想されています。一方、ノネコ捕獲事業で捕獲されるネコの数は毎年10頭にも満たないことから、ネコの存在だけがクロウサギの脅威になっていると想定するのはかなり困難です。
ネコブームの陰で、奄美のネコたちに下されるかもしれない残酷な仕打ちを、どうにか思いとどまっていただきたいものです。