ところでなぜベーシックな招き猫は三毛猫なのでしょう。起源説として有力なのではないか、と筆者が考える薄雲太夫の飼い猫も三毛猫ということになっていますが、三毛猫、特にオスの三毛猫はその希少性から魔よけの力があるという俗信があったためだと考えられます。オスの三毛猫を船に乗せると悪天候を予知し、海難事故を逃れて大漁をもたらすといわれていました。また、黒猫も特別な力のある猫とされ、愛知や岡山、長崎の壱岐などでは特に福をもたらすと喜ばれていたため、三毛猫と並んで招き猫のスタンダードですよね。黒猫や三毛猫は家の魔や災厄を一身に吸い取ってくれると大切にされました。
ところが一方で、黒猫や三毛猫こそ運気を悪くする不吉な動物と取る地域もあったのです。正のパワーは負のパワーも強い、という考えが根強いためでしょう。
三毛猫や黒猫に限ったパワーがあるかはわかりませんが、ネコにはまさに人に「福をもたらす」と言っても過言ではない力があることは、近年の研究で明らかになってきています。ネコの飼い主がそうでない人と比べて、心臓発作のリスクが約30%少ないなど、心臓循環器系のリスクが低いことが判明しています。ネコと触れ合うことで分泌される、俗に言う「幸せホルモン」オキシトシンは、ストレス、不安や抑うつ感情の緩和や、怒りの感情を抑制して人との協調性・信頼感情、そして記憶力まで高めてくれます。ネコののどのゴロゴロが傷病の癒し効果があること、一歳までにネコのいる環境に育った人は、アレルギーへの耐性も高まることも知られています。
その一方、ネコが人間に向けて発する鳴き声は人間の赤ちゃんの声によく似ており、この声で人から望みのものを引き出すすべを獲得していると言いますから、やはり人をとりこにする「魔性」の生き物であることも間違いないようです。
参照
憑物呪法全書 (豊嶋泰國 原書房)
日本招猫倶楽部檀王法林寺日本最古の招き猫伝説