8.18(fri)映画『SAND LAND』公開 ~日本の夏は砂漠よりも危険⁉ その理由を徹底解説~PR
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「DRAGON BALL」「Dr.スランプ」など歴史的作品を全世界へ送り出してきた漫画家・鳥山明氏。 その作品の中でも、“圧倒的完成度を誇る名作”と称される漫画『SAND LAND』が、この夏映画化され公開となります。今回はその舞台となった「砂漠」について、気象の観点から語りつくします。
『SAND LAND』 ~あらすじ~
魔物と人間が共存する、水を失った摩訶不思議な砂漠の世界を舞台に、ワルだけどピュアな全身ピンクの悪魔の王子・ベルゼブブが、魔物のシーフ、人間の保安官・ラオと奇妙なトリオを組んで砂漠のどこかに存在する“幻の泉”を探す旅に出るという冒険ファンタジー。
砂漠の条件 「気温」と「降水量」
一般的に「砂漠」というと「じりじりと太陽が照り付けて暑い!」「カラッカラに乾燥している」というようなイメージがあるかと思いますが、気象の観点から見ると、「砂漠」と呼ばれる地域は、最も暑い月の気温が10℃以上かつ、年間の降水量が概ね250mm未満である地域を指します。 「最も暑い月の気温が10℃以上」だなんて、思ったよりも低いなと感じませんか? そうです。砂漠が砂漠であるには「暑い」ことは必要な条件ではありません。「寒すぎない」ことが条件になります。つまり、砂漠には一般的なイメージ通りの「暑い砂漠」と「そこまで暑くない砂漠」が存在します。ケッペンの気候区分(※1)では、年間平均気温「18℃」がその基準となります。 アフリカ北部や中東、オーストラリア中央部あたりは、年間平均気温が18℃以上の高温砂漠気候(BWh)に分類され、モンゴル-中国付近や中央アジア西部などは年間平均気温が18℃未満となり、低温砂漠気候(BWk)に分類されます(※2)。なかでもモンゴルは、冬季にはマイナス30℃近くまで冷え込む「極寒の砂漠」です。ちなみに年間平均気温「18℃」というのは、日本で言うと「宮崎(17.7℃)」や「鹿児島(18.8℃)」と同じくらいの気温です。
※1 ケッペンの気候区分とは… 植物の植生分布に着目して考案、分類された世界の気候の区分のこと。 ※2 ケッペンの気候区分の英字の意味… ケッペンの気候区分ではまず、熱帯(A)、乾燥帯(B)、温帯(C)、亜寒帯(D)、冷帯(E)に分けられ、乾燥帯(B)のなかでも、降水量が乾燥限界値と呼ばれる値に達するかどうかで、ステップ気候(BS)、砂漠気候(BW)に分けられます。
砂漠の特徴を日本と比較 「降水量」
それでは、砂漠と日本の気候を「降水量」から比べてみましょう。日本の年間平均降水量は約1700mmと、世界でも有数の多雨国であり、最も少ない北海道オホーツク地方でも年間700~800mm程度の降水があります。日本で砂漠をイメージするとなると、「鳥取砂丘」が浮かぶ方も多いかと思いますが、最も近い観測点「鳥取」では年間平均約2000mmの降水があり、とても砂漠とはいえません。つまり日本に砂漠はないのです。
砂漠の特徴を日本と比較 「気温」
次は「気温」を比べてみましょう。日本の観測史上最も高かったのは、静岡県浜松市と埼玉県熊谷市で観測した41.1℃です。ここでは、イラクのバグダッドを砂漠気候の例として見てみます。日本から見て西に約8000km、中東に位置するバグダッドは、7月の最高気温の平均が44℃です。「平均」ですから、日によっては50℃近くまで上昇する日もあるという、典型的な「暑い砂漠」です。 年間の総降水量もわずか100mmほどで、日本では考えられないような天気が続きます。
砂漠の大きな「日較差」 その理由は?
砂漠の気温の特徴として、最高気温と最低気温の差(日較差)が大きいことも挙げられます。 先に挙げたバグダッドの例では、最高気温が44℃、最低気温が26℃であるため、日較差が平均で18℃にも達します。日本でも時期や場所によっては、20℃近い日較差を記録することがありますが、「平均で18℃の日較差」があるような地点はまずありません。ではなぜこのように気温差が大きくなるのでしょうか? それは草木がないためです。草木がないということは太陽光を遮るものがないのです。つまり、昼は太陽光を浴びてどんどん暑くなってしまい、夜は逆にどんどん冷えていってしまいます。また、草木がないと、空気中の水分量が少なくなります。空気と水では、水のほうが熱しにくく冷めにくい性質がありますので、水分量が極端に低い砂漠では、熱しやすく冷めやすい環境になり、日較差が大きくなるのです。
「酷暑日」が増加する近年の日本の夏
砂漠ほどではありませんが、日本の夏も暑く、特に暑い京都や大阪では、8月の最高気温の平均が34℃近くに達します。近年は最高気温が40℃を超えるような日も出始めたこともあり、日本気象協会では「酷暑日」という用語を新たに定め、熱中症対策喚起を強化しています。 ※「酷暑日」とは2022年に日本気象協会が定めた用語で、最高気温が40℃以上になった日を意味します。なお、ここ数年で「酷暑日」の観測回数が急激に増えてきています。
砂漠と同等以上!? 熱中症リスクを急上昇させる日本の「湿度」
とはいえ、最高気温が平均で44℃、日によっては50℃近くまで上昇する砂漠(バグダッド)と比べると、熱中症の危険度は比較にならないのでは?と思う方もいるでしょう。 しかし、日本には、砂漠にはないある要素があります。それは高い「湿度」です。熱中症の危険度を上げる気象条件は暑さだけではないのです。 なぜ湿度が高いと危険なのか?人間は汗をかき、その汗が気化するときに奪われる気化熱を利用して体温を下げています。ただ、周囲の湿度が高いと汗が気化しにくくなります。そのため、体の中に熱がこもってしまって、体温調整がうまくできなくなるため、熱中症の危険度が上がってしまうのです。 砂漠では湿度が一桁台になるのも珍しくなく、8月の平均湿度は約20%ですが、東京の8月の平均湿度は「74%」です。 熱中症の危険度を表す暑さ指数(WBGT値)でみると、日本(湿度70%)の気温30℃は、砂漠(湿度20%)の気温40℃に匹敵します。つまり、日本の夏は40℃の砂漠と同等以上の熱中症リスクがあるのです。
熱中症予防のポイント
40℃の砂漠に匹敵する暑さを持つ日本の夏。熱中症を予防するには、以下のポイントを心がけましょう。 ① 日頃から、体調管理を心がけましょう。朝など時間を決めて、毎日体温を測定したり、健康状態をチェックしたりすることにより、体調の変化に気づくことができます。 ② できるだけ暑さを避けて、喉が渇く前から水分補給を心がけましょう。なるべく涼しい服装を心がけ、日傘や帽子も活用するのが効果的です。入浴の前後や、起床後も、まずは水分を補給しましょう。汗を大量にかいた場合は、水分だけでなく、塩分補給も忘れないでください。 ③ 暑さを我慢せず、エアコンを使って室内の温度を適度に下げましょう。室内に温度計を置き、こまめに室温を確認しながら調節するとよいでしょう。なお、感染症対策として換気を行う場合は、窓とドアなど2か所を開放したり、扇風機や換気扇を併用したりするのが、おススメです。換気後、エアコンの温度は、こまめに再設定してください。 映画『SAND LAND』は2023年8月18日公開です。熱中症予防を行いながら映画を楽しみましょう。