お花見に出かけた後の疲れをあらわす「花疲れ」。人出の多いなかを歩き回る疲れや、「花冷え」「花曇り」の天候で体調を崩す可能性もありますね。桜の美しさに夢中になった後、ふと我に返って感じる疲労感。たしかに思い当たる節もありますが、「花に疲れる」という言葉の奥には、どのような意味が込められているのでしょうか。
花疲れ眠れる人に凭り眠る 高浜虚子
桜は開花から散るまでの期間がわずか2週間ほど。そのため、咲きはじめの頃や散り際はもちろん、今がまさに満開という時も、美しさのなかに儚さを秘めています。春の季語には、「春愁(しゅんしゅう)」「春かなし」という言葉もあり、明るい陽射しや咲く花の華やかさのなかに、人々はそこはかとない寂しさを感じとってきたことが伺えます。「花疲れ」は「春愁」にも似て、桜は人の心を美で満たすだけではなく、もの思いに誘って心をかき乱す花でもあるのですね。
さまざまの事おもひ出す桜かな 松尾芭蕉
「花」は「桜」を指す季語ですが、同時に、栄華、美しさ、明るさ、儚さ、愁い、気怠さ、非日常といった意味合いも含まれています。嵯峨天皇も、咲き誇る桜の花に湧き上がるさまざまな思いを重ねたのでしょうか。
はるか古より人々の心を捉えてきた桜。「花便り」「初花」「若桜」「朝桜」「夕桜」「夜桜」「花影」「花の雲」「落花」「花吹雪」「花衣」など、季語も豊富で、桜の季節は俳句をはじめるのにうってつけです。思いを言葉にのせて、春の風物詩を味わってみるのも一興ではないでしょうか。
・参考文献
大野林火監修/俳句文学館編『入門歳時記』角川学芸出版、KADOKAWA
・参考サイト
地主神社ホームページ神泉苑ホームページ