日本古来の植物であるにもかかわらず、万葉集に詠まれている紫陽花の歌は2首のみ。人気の高かった萩と梅がそれぞれ140首と120首、桜が40首あることからも、紫陽花は古の人々にあまり注目されていなかったことがうかがえます。江戸時代になって松尾芭蕉が詠むまで、日本の古典文学にはほとんど登場していないのです。
紫陽花に美を見出し賞賛したのは、日本人ではなくヨーロッパの人々でした。西洋に紫陽花を伝えた代表的な人物が、鎖国時代に来日していたドイツ人医師のシーボルト(1796〜1866年)です。彼は紫陽花を愛し、著書『日本植物誌』のなかでも紹介しています。ヨーロッパに渡った紫陽花は「東洋のバラ」ともてはやされ、各地で品種改良が行われました。やがて、「ハイドランジア」(西洋アジサイ)として、日本に逆輸入されることになるのです。
庭木のイメージが強かった紫陽花ですが、鉢植えや切り花として店頭で見かけることも多くなりました。紫陽花の品種改良は盛んに行われており、薄いピンクに黄緑が入った色、茶色がかったくすんだ色など、洗練された色合いの花も出回るようになりましたね。切り花として多く店頭に出回るのは5~6月。秋口にかけて出荷される「秋色アジサイ」は、シックな色合いが魅力です。毎年のように新種が登場するので、珍しい紫陽花を探してみるのも楽しみのひとつです。
最後に、印象の違いに驚くこと間違いなし!の、ヨーロッパ映画に登場する紫陽花をご紹介します。
◆高級ホテルと紫陽花
『ベニスに死す』(1971年・イタリア)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
主人公の作曲家が滞在するリド島の高級ホテル。鉢植えや大きな花瓶に生けられた紫陽花が、ロビーや廊下にあふれています。豪華でどこか退廃的な存在感に引き込まれます。
◆ヴァカンスと紫陽花
『海辺のポーリーヌ』(1983年・フランス)
監督:エリック・ロメール
舞台は真夏のノルマンディー。ヴァカンスに訪れた15歳の少女ポーリーヌが滞在する別荘の庭に咲く、生命力あふれる紫陽花。太陽の光が似合う力強さに、紫陽花のイメージが一新されます。
参考サイト
みんなの趣味の園芸神戸市立森林植物園 あじさい情報センター日比谷花壇