全国には、子育て地蔵、子安地蔵、安産地蔵、身代わり地蔵、延命地蔵、水子地蔵などなど、その名にこめられた願いを汲み取るだけで切なくなるような庶民の思いのこもった地蔵尊が数多くあります。
東京都葛飾区水元にある業平山南蔵寺は、「しばられ地蔵」が有名。参拝者は願いことをこめて、境内の地蔵像に縄を巻きつけます。一年の間に縄はまきつけにまきつけられ、異様な姿に。名奉行・大岡忠相越前守が泥棒を見過ごしてとがめられた手代のお裁きで、「地蔵の分際で泥棒を見過ごしたとはけしからん。地蔵を縛り戒めよ」と命じ、その後盗賊も見つかり落着したため話題となり、以来厄除けや盗難除け、縁結びなどの霊験あらたかと信仰されるようになったいわれがあります。
ぐるぐるにしばられたお地蔵様は、毎年12月31日(大晦日)の夜、縄解き供養が行われます。
また、巣鴨の有名な「とげぬき地蔵」のある高岩寺は、お地蔵様には珍しく秘仏ですが、熟年層が群がって「洗い観音」をこすっている様子は、テレビなどで見たことのある方も多いでしょう。病気平癒、厄除け、商売繁盛などの霊験があるといわれます。
栃木県の岩船山高勝寺は、日本三大子授け地蔵として知られ、また寺のある岩船山は日本三大霊山・関東の恐山と称されることもあり、関東一円の亡者はこの山に集まりあの世に向かう、ともいわれるスポットです。生と死の境に立つゲートキーパー地蔵菩薩の神格を体験するのに恰好のお寺です。
立派な身なりの偉い人には気後れしても、自分たちと変わりない質素な身なりをしたお地蔵様に親しみを覚え、まるで親しい頼れる友のようにいつくしみ、図々しくお願い事をできる気の置けない仏様。納めの地蔵とサンタクロースが訪れるクリスマス・イブが同じ日なのは、そしてお地蔵様が真っ赤なよだれかけをし、サンタクロースが真っ赤な衣装を身に着けて、どちらも子供たちによりそう精霊であることは、単なる偶然なのでしょうか。人類共通のイメージ力が、長く信仰されるものに存在している不思議な一致を感じさせます。この世に生きている子供たちへのプレゼントはサンタさん、でもあの世に行ってしまった子供たちのために、納めの地蔵に身近なお地蔵様にお供えする、というのもいいかもしれません。
しばられ地蔵岩船山高勝寺