多くの地域で祭りの担い手が不足し、伝統芸能が存亡の危機に直面している現代、佐原囃子は周辺地域の人口減少や少子化の中、継承する囃子連はむしろ近年でも微増し、しっかり次世代に技術と知識を継承させています。しかし、かつて佐原囃子も深刻な消滅の危機に瀕した時代がありました。戦後、若者の戦死による人口減少と自由主義社会の到来による旧来のコミュニティの弱体化の影響をもろに受け、下座連に加わる若者が激減したのでした。このとき、町の祭り関係者たちはすばやく改革に取り組みました。1947年頃から、多くの日本の伝統芸能がそうであるように口承が当たり前だった囃子の演奏技法を、曲目を譜面に起すことで保存と再現性を高め、さらに各下座連に参加する若者に積極的に重要なパートを担わせてモチベーションを上げ、奏法や楽器の向上を目指す工夫や研究もすすんで取り入れました。
このように歴史のある組織や文化にありがちな年功序列の封建的風土を排除する一方、古い伝統の保存にも取り組んでいます。
儀式儀礼の際に奏されるもっとも格の高い囃子「砂切(さんぎり)」や、かつて佐原周辺の常総地域の村落各地に存在していた下座連では、個性的で多様な調べが存在していたといわれますが、人口の少ない村落の下座連では、奏者の高齢化とともに保持していた独自の技術や曲目は、徐々に消え去りつつありました。そこで「佐原囃子保存会」は、こうした村落を訪ね、高齢の奏者に奏法や曲目を聞き取り調査し、失われつつある遺産のアーカイブ作業を行っています。
佐原の歴史的建造物保存群は、外観をそれらしく装ったものではなく、実際に江戸時代から残る本物の蔵造り建築が数多く見られる全国的にも貴重なものです。往時のようにサッパ舟が舟運や日常の移動、嫁入りなどに使用されていた風習は、水路の衰退とともに失われ、観光用に姿を変えてはいますが、「江戸優り」を本気で目指した佐原っ子気質は今も二つの「大祭」にしっかりと受け継がれています。
コロナ禍で大祭が中止になった今年ですが、流麗な佐原囃子とともに来年は必ずや復活してほしいと願っています。
参考・参照
江戸優り 佐原の大祭あんばさま総本宮 大杉神社佐原秋の大祭 楽日