
防災意識が高まっている昨今、カセットコンロ(コンロ)やカセットボンベ(ボンベ)の備蓄を検討している人も多いはず。
被災時にはどのように役立つのだろうか。メリットや使用時の留意点を、一般社団法人「日本ガス石油機器工業会」の岡本務さんに聞いた。
被災時にありがちな苦労を軽減する
コンロやボンベは普段から活躍するが、被災時はさらに役立つ。岡本さんによれば、最大の利点は“お湯”を作れることだという。
「お湯は非常に有用です。飲食に使えるのはもちろん、タオルに浸せば、顔や手、体を拭けますし、けがした際は傷口をぬるま湯で清潔にすることもできます」
停電などで入浴できない状況でも、体を冷やさず、傷口への刺激を抑えつつ、清潔さを保てる。衛生環境を整えやすくなるのだ。また、寒い時期には、暖房器具としての効果が期待できるそう。
・お湯を沸かすことで発生した湯気、コンロの火で、空間が自然と暖まる
・ボンベに対応した、ガス式の暖房機器(ストーブなど)が使える
このほか、精神的なメリットもあるという。
「大きな地震の被災者からは、“コンロの火を見ると精神的に癒された”という声もあります。停電した状態での、夜の闇は不安をあおりますが、コンロの火がともっているのを見て、落ち着きを取り戻せたという方もいました」
使うなら注意したい2つのこと
いざ被災時に使う場合、どんなことに意識すべきなのだろうか。
岡本さんによると、コンロやボンベの使用期限を守り、さびていないかなどの確認はもちろんしてほしい。それに加えて、注意すべきポイントが2つあるそうだ。
注意すべきポイントの一つ目は、火災を起こして混乱を拡大させないこと。
被災時は避難や救助活動で混乱が予想される。そんな状況で火災が起きると、周りに迷惑をかけたり、二次災害につながる恐れも。
「使う前には周囲に引火物がないかを確認してください。車中などの狭い空間で火を付けると一酸化炭素中毒に至る危険性があります。閉め切った狭い空間では使用しないでください」
二つ目は“ドロップダウン現象”の対処法を知っておくこと。ドロップダウン現象とは、ボンベが冷たくなる環境で起きる「点火しづらくなる・火力が低下する」状態だ。
「目安として、一般的なボンベは気温が15℃以上であればストレスなく点火できますが、10℃以下だと点火しづらくなり、5℃を下回るとほぼ火がつきません」
「ドロップダウン現象」の対処法
被災時に起きると悩ましいが、どうすればいいのだろうか。岡本さんに聞いた対処法は、ボンベを“人間の体温であたためる”というもの。
服の内ポケットなどに入れ、人肌ほどになったと感じたらセットして点火してみる。うまくいかない場合は体温であたためる。これを火が付くまで繰り返せばOKだ。
ただし、ボンベを他の火などで直接、熱するのはNGなので、注意してほしい。
また、火が付きにくい場合は「ガチャガチャ」と早いピッチで点火動作を繰り返してしまうがこれも危険だ。
火が付かなかったとしても、ボンベからはわずかにガスが放出されている。蓄積すると、点火した際に大きな火となり、火傷などにつながるリスクもあるという。
「火が付かない場合は“一呼吸おいてから”、点火用のつまみを回してください」
コンロは「風に強い」ものがお勧め
ちなみに、コンロの種類は普段家庭で使っているもので問題ないが、過去の災害現場から聞いた話では“風に強いコンロがあればよかった”という声が上がっていたという。
「屋外での使用を余儀なくされた方が多かったからでしょう。最近は風の影響を受けにくいよう、風よけの機能を備えた、アウトドア向け製品もリリースされています。被災時の使用を想定するなら、検討してもいいかもしれません」
ボンベの備蓄量はどれくらい?
被災時の使用を想定した場合、ボンベはどれくらい備蓄しておくべきなのか。
政府広報オンラインによれば、コンロとボンベは被災時の“必需品”のひとつ。ボンベは1人で1週間当たり、約6本が必要になるという。
岡本さんによれば、標準的なボンベが1本あれば、1Lの水を約14.7回沸騰できるそう。
※気温が約20℃の場合
「ただし気温が低い時期などは、より多くのガス量が必要となります。例えば気温25℃と気温10℃で比較した場合、気温10℃は約1.5倍のガス量が必要になるというデータがあります」
お湯があれば、レトルト食品を温めたり、温かい飲み物を作れたりもするので、ボンベは「家族が1週間使う数+余裕を持てるくらいの数」を備えておくといいという。
落とし穴として、コンロとボンベを“防災専用”として備蓄しておくと、使用期限が切れていても気付きにくいので注意が必要だ。
「だからこそ日常生活でも使い、状態をチェックすることが大切です。使用期限が来ないうちに新しい物へと入れ替えていく“ローリングストック”が必須となります」
コンロとボンベがあると、被災時の後の暮らしやすさも変わってくるはず。記事で紹介した留意点を守りつつ、有効活用したいところだ。