
熊本地震で被災した阿蘇神社の再建工事に尽力した宮大工の男性が4月19日、阿蘇神社で結婚式を挙げました。
男性は現在、古里・福井県で暮らしていますが、阿蘇市出身の妻と出会うきっかけをつくってくれた阿蘇神社を挙式の場に選びました。
【吉川 翔 さん】(※吉は土に口)
「〈ちゃんとしないといけないな〉と。とりあえず最後まで背筋を伸ばしていきたい」
少し緊張した面持ちで羽織袴に袖を通す男性。福井県出身の宮大工、吉川 翔 さん(27)です。
【吉川 翔 さん】
「最初、阿蘇神社に来たときは楼門も拝殿も倒れていた。それまで立っているところを見たことがなかったので、どんな形になるのかも不思議で、その時の棟梁たちと試行錯誤しながら(やっていた)」
熊本地震で甚大な被害を受けた阿蘇神社。江戸時代末期に建てられた楼門が全壊するなど6棟ある国の重要文化財全てが被災しました。
高校卒業後、2016年4月に文化財の建物の修復などを手がける地元・福井県の『藤田社寺建設』に入社した吉川さん。
直後に熊本地震が発生し、その年の11月から阿蘇神社の再建工事に従事しました。
【吉川 翔 さん】
「18歳。右も左も分からないときに…。〈修業〉という形で阿蘇神社はいろいろ勉強させてもらった現場」
楼門の復旧に最初から最後まで携わったという吉川さん。復旧工事の仕上げとなった『透塀(すきべい)』と『御札所(おふだしょ)』の新築工事では『棟梁』を任されました。
【妻・彩加さん】
「私は阿蘇出身なんですけど、今日こんな素晴らしい所で式を挙げることができて、うれしい」
復旧工事に尽力する中、阿蘇市出身の彩加さんと知り合い、2022年に結婚。
翌年、生まれた娘は神社にちなんで瑛麻(えま)と名づけました。
3人は現在、吉川さんの古里・福井で暮らしています。
【吉川 翔 さん】
「結婚するってなった時には〈阿蘇神社でしよう〉と思っていたので…。(妻に)『どうする』って聞いたら『阿蘇神社で挙げたい』ということだった」
【内村 泰彰 権禰宜】
「(神職が)全てサポートするので、ゆっくり落ち着いてするのが一番大事なので…」
2人が出会うきっかけとなった阿蘇神社での挙式。本番を前に緊張した様子の2人を神職らが優しくサポートします。
【内村 泰彰 権禰宜】
「さあ、本番モードでいきますよ。いいですか?」
【吉川 翔 さん】
「ちょっと、もう1回だけ練習させてください」
そして、本番を迎えました。
式では新郎新婦がお酒を酌み交わす〈三三九度〉の儀式を行った後、指輪を交換しました。
【誓いの言葉】
「今よりのち、私たちはこの喜びを深く心に銘じて互いに信じ助け合って終生、苦楽を共にいたします」
復旧した拝殿で行われた神前式には両家の親族らも参列し、新郎新婦の門出を祝いました。
【吉川 翔 さん】
「2人の思い出の場所というのもあって、忘れられることができない思い出になった」
熊本地震から9年。全ての復旧工事が完了した阿蘇神社。この復旧に尽力した宮大工の挙式は、神職にとっても喜びはひとしおです。
【内村 泰彰 権禰宜】
「阿蘇神社の災害復旧の9年間の中で成長されてすごく立派になられて、何より、まさかこの地元で奥さんを見つけられるなんて、こんなすてきなことはありません」「自分が携わった建物で結婚式ができるなんて、こんな幸せなことはない」
復旧に携わった楼門を多くの人がくぐるのを眺めながら、吉川さんは宮大工としてさらなる飛躍を誓いました。