日本のクマは食性が植物食よりであること(ツキノワグマだけではなく、近年、エゾヒグマも肉食性が低く、鹿や鮭をさほど食べていない、ということが判明しました)から、クマとしては小型が多いのですが、ホッキョクグマやコーディアックグマ、ハイイログマなど、世界には雲つくような巨大グマが多くいます。
しかし、それらよりもっと大きなクマがいる、といううわさがあります。それが19世紀のナチュラリストで冒険家のロバート・マクファーレン (Robert MacFarlane) がイヌイットから頭骨と被毛を譲り受けた「マクファーレンズ・ベア」です。その巨大さもさることながら、頭骨の形がそれまでのクマのどれとも違っていたため、マクファーレンはスミソニアン博物館に詳しい調査を依頼しますが、そのまま忘れ去られて半世紀。20世紀に入りたまたま倉庫から見つけ出され、解析がおこなわれた結果、そのクマはシロクマとグリズリー(ハイイログマ)の混血種であることがわかりました。その大きさは立ち上がると3mをはるかに越え、現生のどのクマよりも大きいと推定されました。
この事実は、大きさよりも、シロクマとグリズリーが自然交配わしている、という事実を明らかにしたことにより大きな意味がありました。2006年にも、このシロクマとグリズリーのハイブリッドと見られる巨大なクマが、狩猟者によってしとめられています。
ハイブリッド種が大きくなるのはクマに限ったことではなく、大型ネコ科でも、ライオンのオスとトラのメスを掛け合わせたライガーは、とてつもない大きさになることで知られています。これは、ライオンのオスに巨大化遺伝子が存在すると同時に、ライオンのメスには熱帯のサバンナで狩りがしやすい身軽さを獲得するための成長抑制因子が存在し、結果としてライオンの体格を現状の大きさにとどめているのですが、トラのメスにはそうした抑制因子がないので、ライオンのオスの成長遺伝子が抑制されずに発現して巨大化するのだといわれます。その体長は尻尾を除いた大きさで3mを越えて、「ナルニア国物語」に登場するライオンのアスランのような巨大さです。ただし、マクファーレンズ・ベアとはちがいライガー(もしくは父トラと母ライオンから生れたタイゴン)には内臓疾患や生殖能力の欠如などの障碍が発生することが多く、現在作出は禁止・抑制されています。
トラの巨大種と言えば、1980年代に悲しいことに絶滅したジャワトラの先祖に当たる、更新世のインドネシアに生息していたガンドントラ(Ngandong Tiger)は、体長が4m近く、体重も500kgだったと推定されるスーパーキャット。
ステラーカイギュウ、マンモス、バーバリーライオンなどなど、人間が絶滅に追いやった大型動物は数多く、もし人間がもう少し残酷でなかったら、空想や想像で語られる巨大なクマやトラ、ライオンが、今もたくさん駆け回っていたかもしれません。
シリーズ:クマの冬眠の謎にせまる