季語で知る日本「春暁(しゅんぎょう)」…だけじゃない、春の風光(ふうこう)
サイエンス
桜前線も北へと向かい、花の名残りを惜しむ頃となりました。今年の春はことのほか気紛れで、初夏を思わせるような日があったかと思うと、一転冴えかえる…を繰り返しています。
それでも、朝は霞のしっとりとした風情(ふぜい)にはじまります。そして、春の一日はどこをとっても美しいものです。それぞれの時間を季語と共に味わいたいと思います。
季語
「冴えかえる」
「霞」
「春暁(しゅんぎょう)」…明け方から朝へのうつろい
「春暁」は、「暁(あかつき)」と「曙(あけぼの)」を含めた明け方を表わす季語です。古くは、暁は夜明け前の薄暗さを、曙は明け方の様子を表していました。今では、暁から曙にかけてを明け方を表わす語として「春暁」と言っています。春の朝、明けてくる様子だけでも美しさはうつろっているのです。「春はあけぼの…」と詠った清少納言は、京都の山を白く縁どる朝霞(あさがすみ)を『春だなぁ…』と感じていたのでしょうか。
東の空に太陽が昇って、燦々と降り注ぐ陽射し…その陽射しに照らされてきらきらと光る草木の緑は春の生命力そのものです。
季語
「春暁」
「朝霞」
「春昼(しゅんちゅう)」から「春夕焼け(はるゆやけ)」へ…
水分の多い春は、明け方から霞がかっていますが、昼にはより陽射しがきらきらとまばゆく感じられます。これを「風光る」、「春光」などと言いますが、どちらも昼の日差しの柔らかな輝きを表わしています。どちらかというと、「風光る」の方が光線が強い感じでしょうか。そんな時間は眠気を誘うもので、「春眠(しゅんみん)」暁を覚えずどころか、春の昼はうつらうつらとしてしまいますね。
そしてのんびりと昼間を過ごした後には、淡い夕焼けが空を彩ります。夕焼けは夏の季語なので、それ以外の季節は「春夕焼け(はるゆやけ)」など、季節の言葉をつけて言い表します。「春夕焼け」はパステルカラーの柔らかな西日が特徴です。一日を通して、空も風も陽射しも冬より水分を含み、水彩画のような景色となるのが春の一日です。
季語
「風光る」
「春光」
「春眠」
「春夕焼け」
そして「春の宵(よい)」、「春の夜」のしどけなさ
一日を通して、しっとりとした空気とまばゆい光に包まれて過ごすのが「春の一日」。そのクライマックスは、「宵」のなんとも言い難い空色の変化に尽きるのではないでしょうか?
特に桜が咲いている頃は、花明りがさらに優しい宵の空をなめらかに彩るものです。花が散り葉桜となっても、さらに水分を得たかのように、日が沈んでからの空の色は優しく私たちを受け止めてくれます。
月も星も、わが身をゆだねるようにほんわかと浮かんでいる風情です。
春はあけぼの…はもちろんですが、昼のまばゆい光や景色を溶かすような夕焼けから宵闇も、春は一日中美しい…その美しさをもう一度感じてみませんか?
季語
「花明り」
《参考文献・サイト》
茶趣12か月バンドブック
角川俳句歳時記・春