生きつづける日本人の色彩感覚!私たちの伝統の色はどこから?
2019年09月25日
現代の私たちも晴れの日の装いには、平安の頃の美しい日本の伝統色をおおいに参考にして取りいれてます。日本人の心に響く色は美しく華やかなものだけではなく、もっと奥行きのある色もあるはず…… 。今日は日本人が培ってきた心に響く色について考えてみようと思います。ぜひ、おつき合いください。
江戸時代に花開いた歌舞伎のエネルギーと粋!
歌舞伎定式幕
歌舞伎の引き幕に使われている萌黄、柿、黒の3色は歌舞伎カラーとして今や世界でもお馴染みになってきています。華やかで存在感があり、それでいて自己主張しすぎない落ち着きを感じる、なんともいい色合いだと思いませんか? 萌黄色の奥には鮮やかさを持つ黄色があり、紅殻(べんがら)の明るさがベースの柿色は、ぐっとトーンを落とした渋さが、安定感を与えているよう。黒と組み合わせ三本の太い縦縞にした大胆なデザインも、江戸時代らしい庶民の力強さが表れているように思います。このように色とデザインを思い切りよく組み合わせる才能は、”粋”といわれる日本人の心の伝統です。
粋、といえば気っぷの良さ?それはこんな処にも……
左から、渋茶色の有平縞、海老茶色の籠目、団十郎茶の釘抜き 浅草:染めの安坊
しかし手拭いといえば、もともと毎日の生活でチョイと帯に挟み、手を拭いたり汗を拭ったりと名前そのままに重宝された、長さおよそ90㎝の木綿の晒し布です。せっかく毎日使うのならと水玉模様や縞模様、好きな柄を染めて楽しくしていったようですね。
ここでも最先端の流行を作り出したのは、やはり歌舞伎役者です。お洒落な粋人が揃っていたのでしょう。手拭いにもさまざまなアイディアを残しています。図案では七代目市川団十郎が愛した「鎌、丸、ぬ」を描いて「かまわぬ」と読ませるものや、三代目尾上菊五郎が考案した「斧、琴、菊」の絵で「良きこと聞く」と読ませるなどの、判じ物の図柄が考案されました。さらにシンボルカラーといえる色も作りだしています。「団十郎茶」に「芝翫茶」「路考茶」「梅幸茶」「岩井茶」と役者の好みが反映された色が数多く作られたそうです。
江戸時代、幕府の政策で庶民は贅沢なもの、派手やかなものから常に遠ざけられており、着物の色も藍色、鼠色、茶色と限定されていました。その中で精いっぱい育んだお洒落感覚が「四十八茶百鼠」といわれる色のバリエーションの豊かさに表れています。私たちの日常を見まわしてみても、紺やブルー、グレー、茶色は生活の中で落ち着きをもたらす基調色となっています。この時代に工夫された色合いは現代の私たちにも受け継がれている、そう感じられます。
日本人の心の奥には「侘び寂び」の精神が……
京都のお寺を訪れると、緑の木々の間からかすかな水の流れを聞くような静寂さに心惹かれますが、砂の流れの中に大小さまざまな石を配した庭の簡素さに心をつかまれた、という方もいらっしゃることでしょう。
思わず座りこんで無心に眺めたくなる色のない世界です。お寺の塀の外、彼方へと広がる自然からは隔離された静けさの中での石との対話は、やがて自分自身の心の奥へと深まっていきます。ここではすべての色は退けられていますが、心の中に広がる世界は色とりどり、ということもあるのではないでしょうか。水墨画を見ながら豊かな自然を感じられるように、さまざまなものをそぎ落とした後に残ったエッセンスにすべてを託し、想像できる力もまた、日本人が知らないうちに身につけてきた色の感覚。モノトーンも私たち日本人の伝統の色と考えてもいいのでは、と思うのです。
秋が深まりゆくとき、今年はどんな色で装いをコーディネートしていきますか? このように考えていくと、日本人が育んできた色彩感覚はなかなかステキです。大いに学んで利用させてもらいましょう。新しい自分の発見にもつながるかもしれませんよ。