冬の芸術「樹氷」ガイド|仕組みや条件、見られる場所、温暖化の影響を解説
これらはいずれも樹氷の別名で、雪氷の形がそう見えることから名づけられています。特に、巨大な白い怪獣のように見える「アイスモンスター」は、いくつもの条件が奇跡的に重なって生まれる、日本の冬を象徴する絶景のひとつです。
この記事では、樹氷とは何か、その仕組みと条件をわかりやすく解説します。また、日本三大樹氷をはじめとした全国の観賞スポットや実際に見にいく際の注意点。さらには地球温暖化によって減少しつつある樹氷の現状についてもお伝えします。
樹氷とは
さまざまな樹氷の形(アイスモンスターとエビのしっぽ)
過冷却水滴とは、0℃以下でも凍らない水滴のことです。普通、水は0℃で凍りますが、雲粒のような非常に小さな水滴は、低温でも液体のままでいることができます。ただし過冷却水滴は不安定なため、木にぶつかるなどのちょっとした衝撃ですぐに氷へと変化します。
樹氷は、形や大きさ・成長の仕方などによって、「エビのしっぽ」や「アイスモンスター(スノーモンスター)」と呼ばれることもあります。その姿はまさに冬の自然が作り出す芸術作品です。
・エビのしっぽ
過冷却水滴が樹木や岩などに着氷し、風上側に伸びたものを、その形状から「エビのしっぽ」といいます。
・アイスモンスター(スノーモンスター)
樹木にできた「エビのしっぽ」の氷の隙間に着雪し、さらに氷と雪がくっつきあって固くしまる「焼結」が起こります。この着氷・着雪・焼結を繰り返し、樹木全体が雪氷で覆われ巨大な白い塊へと成長した姿は、怪獣や恐竜のように見えることから、「アイスモンスター」または「スノーモンスター」と呼ばれます。
なお、アイスモンスターは氷だけでなく氷と雪が合体してできたものであるため、厳密には「過冷却水滴が凍りついたもの」という本来の樹氷の定義からは外れるという見方もあります。
しかし、一般的に「樹氷」と聞いて多くの人がイメージするのは、このアイスモンスターの姿でしょう。
世界的にも希少なアイスモンスター!その条件とは?
樹氷(アイスモンスター)ができる条件
アイスモンスターは、以下のような条件がそろった場所でのみ見ることができます。
①常緑針葉樹が自生
針葉樹の葉っぱには氷や雪がつきやすいためです。
②多量の過冷却水滴の存在
樹氷が生まれるためには、もととなる過冷却水滴の存在が必要不可欠です。
③常に一定方向の強い風が吹いている
風向きが一定でないと氷が成長しにくく、なかなかエビのしっぽができません。
④適度な低温
氷や雪は、気温が高いと溶けてしまうのはもちろん、低すぎてもつきにくくなります。平均気温が-10〜-15℃くらいが適していると言われています。
⑤適度な積雪
アイスモンスターへと成長するためには雪が必要ですが、多すぎても木が埋もれてしまいます。積雪量2〜3mくらいがよいとされています。
樹氷が見られる場所は?日本三大樹氷など代表スポット
蔵王の樹氷(アイスモンスター)
アイスモンスターが見られる場所としては、以下のスポットが知られています。
・蔵王(山形県・宮城県)
・八甲田山(青森県)
・森吉山(秋田県)
・八幡平(岩手県・秋田県) ※要雪山登山装備
・西吾妻山(福島県・山形県) ※要雪山登山装備
・志賀高原(長野県) ※厳冬年のみ
・菅平高原(長野県) ※厳冬年のみ
これらの場所では、樹氷の成長に適した「アオモリトドマツ(オオシラビソ)」という針葉樹が多く自生しています。さらに、大陸から日本海を渡ってくる北西の季節風や、それによって運ばれる多量の過冷却水滴など、先ほど紹介したアイスモンスターの成長条件がそろっています。
中でも蔵王・八甲田山・森吉山の3つは特に有名で、「日本三大樹氷」と言われています。3つのスポットはいずれもロープウェーなどを利用して比較的アクセスしやすく、迫力満点の樹氷を楽しめることから、観光地としても高い人気を集めています。
ここからは、それぞれの見どころや見頃時期を紹介します。
◆蔵王(山形県・宮城県)
日本を代表する樹氷スポット。ロープウェーの車窓や山頂テラス、レストランからなど、さまざま場所から樹氷を楽しむことができます。期間限定でライトアップも実施され、夜の幻想的な樹氷も観賞できます。(2025年時点)
・例年の見頃:12月下旬〜3月上旬頃(ピークは1月下旬〜2月下旬)
・アクセス方法:(山形県側)蔵王温泉からロープウェーやリフト、ケーブルカーを利用
・山形蔵王温泉スキー場の天気はこちら
・詳細は山形市観光協会HPへ
◆八甲田山(青森県)
ロープウェーから樹氷を眺めながらの空中散歩ができます。また、スキー・スノーボードで樹氷の合間を滑走できるコース(中・上級者向け)もあります。(2025年時点)
・例年の見頃:1~2 月頃
・アクセス方法:八甲田ロープウェーを利用
・八甲田スキー場の天気はこちら
・詳細は青森観光情報サイトへ
◆森吉山(秋田県)
阿仁スキー場のゴンドラを経由して徒歩5分の樹氷平では、1周30分ほどの散策コースが整備されています。嬉しい長靴・スノーシューの無料貸し出しや、夜間ツアーなども用意されています。(2025年時点)
・例年の見頃:1月上旬〜3月上旬頃
・アクセス方法:阿仁スキー場のゴンドラを利用
・森吉山阿仁 スキー場の天気はこちら
・詳細は阿仁スキー場公式サイトへ
アイスモンスターは東北と長野県の限られた場所でしか見ることができませんが、エビのしっぽは、北海道〜九州まで全国各地の山地などで見ることができます。
例えば、近畿の高見山(奈良県・三重県)や、南は九州の屋久島(鹿児島県)でも見られることがあります。
樹氷を見に行く前に知っておきたい服装と注意点
樹氷鑑賞時のおすすめの服装
<樹氷観賞の際の服装・装備>
・防寒着
・帽子・手袋などの防寒小物(帽子、マフラー、手袋、厚手の靴下、サングラスなど)
・防寒・防水の滑りにくい靴(スノーブーツや冬用のトレッキングシューズ、防寒長靴など)
登山でのアクセスが必要になる場所は、雪山登山用の装備を万全にしていきましょう。
山の天気は変わりやすく、冬山では視界不良になると一気に方向を見失いやすくなりますので、必ずGPS等を携帯しましょう。登山届の提出も忘れずに行ってください。雪山に不慣れなら、ガイド同行が安心です。
また、自然保護や安全のため、決められたエリア以外には立ち入らないようにしましょう。
地球温暖化と害虫被害により迫る危機――失われつつある樹氷を守るために
山形市における冬季平均気温の長期的変化(気象庁より)
「暖冬」という言葉がよく聞かれるようになったことからも想像できるとおり、昔よりも樹氷(アイスモンスター)が成長しにくくなったり、見られる場所が減ってきたりしています。
長野県の志賀高原・菅平高原では、木全体が分厚い雪氷に覆われて原型がわからないほどにまで成長した樹氷を見られる機会は減り、以前と比べてスリム化しているそうです。
近年、従来のような立派なアイスモンスターに会えるのは厳冬年のみに限られています。
また山形県・宮城県にまたがる蔵王では、地球温暖化の影響と思われるアイスモンスターの面積の減少がみられています。山形大学の調査によると、1940年頃と比べて2010年頃はアイスモンスターが見られる標高が300mほど高くなり、面積は約4分の1に減少していたそうです。
山形市の冬季の平均気温は100年間で約1.5℃上昇しており、長期的な気温上昇の影響は否めません。
さらに蔵王では、アオモリトドマツの害虫被害も深刻化していると言われています。
2013年〜2016年に、大量発生した蛾の幼虫によるアオモリトドマツの葉の食害が発生。さらに追い討ちをかけるように、山の上でも暖かい日が増えた結果、気温が15℃を超えると飛ぶ性質のあるキクイムシによって食い荒らされ、木が広範囲で枯死してしまう被害も発生しました。木が枯れてしまえば、当然アイスモンスターはできなくなってしまいます。
こうした害虫被害にも、地球温暖化が影響していると考えられています。
このままでは、樹氷(アイスモンスター)が見られる場所や期間がさらに減り、樹氷自体もどんどん小さくなってしまう可能性があります。
樹氷を一度見てみたいと思う方も、実際に目の当たりにして心を動かされた方も――
その気持ちをきっかけに、この貴重な絶景を守るべく、私たち一人ひとりが地球環境のためにできることを考えてみませんか。
