正常性バイアスを知っていますか?「自分は大丈夫」と思い込む、脳の危険なメカニズム
2015年04月18日
様々な要素で構成される人間心理(psychology)……。そのメカニズムは深奥です
人間には些事に翻弄されないよう、自然と心の平穏を保つ働きが備わっているので、日常生活で問題に直面したときにも、それなりに対応できるチカラを有しています。
ところが、大災害など未経験の事態に遭遇した場合、この働きが過剰反応し、脳が処理できなくなることがあります。
これを「正常性バイアス」と言いますが、最近、話題に上ることの多い“この心理”が危ないのです!
「正常性バイアス」とは?
人間が予期しない事態に対峙したとき、「ありえない」という先入観や偏見(バイアス)が働き、物事を正常の範囲だと自動的に認識する心の働き(メカニズム)を指します。
何か起こるたびに反応していると精神的に疲れてしまうので、人間にはそのようなストレスを回避するために自然と“脳”が働き、“心”の平安を守る作用が備わっています。ところが、この防御作用ともいえる「正常性バイアス」が度を越すと、事は深刻な状況に……。
つまり、一刻も早くその場を立ち去らなければならない非常事態であるにもかかわらず、“脳”の防御作用(=正常性バイアス)によってその認識が妨げられ、結果、生命の危険にさらされる状況を招きかねないのです。
逃げ遅れの心理「正常性バイアス」の恐ろしさ
そう話していた人々が住む地域には、大型防潮堤等の水防施設が設置されていた……、また10m超の津波を経験した人がいなかった……などの様々な要因があり、迅速な避難行動が取れなかったことも事実です。よって、一概に「いち早く行動を取れるか」「危険に鈍感になっていないか」を明確に線引きできない部分もありますが、緊急事態下で的確な行動を取れるか否かの明暗を分けうる「正常性バイアス」の働きを、過去の災害が示唆する教訓として、私たちは理解しておきたいものです。
また、御嶽山の噴火の際にも同じような心理が働いていた可能性があります。
火山の噴火という危険な状態に接しても、「大丈夫だろう」(=正常性バイアスの働き)と、立ち上る噴煙を撮影していたため、避難が遅れた人も少なくないといわれています。
災害の報道をテレビで見ている多くの人は冷静であるがゆえ、「撮影している時間があれば逃げられたのでは?」と考えがちですが、災害に直面した当事者にしかわからない「正常性バイアス」は予想外の大きなチカラで人々の行動を制限します。
そのため過去の事例からも、地震、洪水、火災などに直面した際、自分の身を守るために迅速に行動できる人は、“驚くほど少ない”ことが明らかになっています。
ほとんどの人が緊急時に茫然! では、どうしたらいい?
突発的な災害や事故に遭った場合、事態の状況をとっさに判断できず、茫然としてしまう人がほとんどと言われています。
「緊急地震速報の報道におびえて動けなかった」「非常ベルの音で凍りついてしまった」という話をよく聞きますよね。
こういうときこそ必要なのが、「落ち着いて行動すること」。
そのために有効なのが「訓練」です。
訓練を重ねることで、いざというとき、自然にいつもと同じ行動をとることができる、つまり、訓練と同じ行動をとることで身を守れる、というわけです。
非常事態の際に「正常性バイアス」に脳を支配されないよう、本当に危険なのか、何をしたらいいかを見極める判断力を養っておきましょう。
最後は狼に食べられてしまう、イソップ物語『羊飼いと狼』
羊飼いの少年に何度も「狼が来た」と言われて惑わされた村人は、いつしか「またか」と対応しなくなり、ついには本当の非常事態だということがわからなくなって、羊は狼に食べられてしまいます。
物語の本来の目的は「うそをついてはいけない」ことを子どもに伝える童話なのですが、裏を返せば、村人の「正常性バイアス」の働きをうまく突いた、“戒め”のように聞こえなくもありません。
数々の災害や事故などによっていくつもの「想定外」が生まれ、「想定内」にする努力がなされていますが、いまだに「想定外」が出現し続けている昨今。
私たちの心の在り方そのものが、さらなる災害を生みだすことのないよう、日頃から日常と非日常の切り替えに翻弄されず、冷静に対応することが求められています。