季節と日常を彩るささやかな魔法―装飾は流転する展
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高田安規子・政子《カットガラス》2014年 ゴム製吸盤 2~6cm photo Hideto.Nagatuka
大寒を過ぎ、厳しい寒さが続いていますがもうすぐ立春を迎えます。冬惜しむこの時期になると、草木にも新たな命を紡ぐ気配が見え隠れするようになります。「万物は流転する」と言ったギリシアの自然哲学者・ヘラクレイトスの言葉ですが、秋に実り冬に枯れた命は春に芽吹きます。自然界の流転は生命の代謝を表わしています。では、芸術における流転とは何でしょうか?そんな問いに答えるように、現代芸術の7組の作家による展覧会が、東京都庭園美術館(東京・白金台)で開催されています。中でも、季節の変化を遊び心いっぱいに表現している、高田安規子・政子姉妹の作品を追って芸術における「流転」を探してみましょう。
装飾は流転する―白金台で現代芸術を哲学する
日本のアール・デコ様式の代表建築である、旧朝香宮邸(本館)と、ホワイトキューブ(新館)、この二つの展示会場を持つ東京都庭園美術館では、西洋美術から日本の工芸、現代芸術に至るまで、幅広い展覧会が催されてきました。昨年、エレベーター設置工事に伴う約半年間の休館後、再オープン初の展覧会が、装飾は流転する―「今」と向きあう7つの方法、です。装飾というキーワードをテーマに、気鋭の作家7組と美術館が、独自の空間に織りなす展示は、「装飾美の館」ならではのコラボレーションとなっています。装飾というと、貴金属をはじめとした飾りを思い浮かべがちですが、その始まりは弔いの儀式など、生活に密着したものでした。装飾は私たちの生活の中から生まれたもののはず…季節や生活に寄り添う作品を展示している、高田安規子・政子姉妹のユニットの作品から見えるものとは?
妖精が舞い降りた?―小さな装飾が表すもの
高田安規子・政子《葉》2015年 刺繍したテーブルクロス、刺繍絹糸
高田安規子・政子姉妹(以下、高田姉妹)は、本館・旧朝香宮邸のプライベートな居室に、まるで妖精が魔法をかけたように作品を散りばめています。往時の朝香宮家の人々が日常の食卓としていた小食堂には、四季を表わす皿《Four Seasons Plate》と季節の移り変わりを色彩で表現した木の葉《Leaf》が、窓辺のガラスケースには切子硝子の器…にしか見えない、細工を施した吸盤《カットガラス》が日差しを浴びてきらめいています。まるで妖精が舞い降りて、邸内で遊んでいるような作品たち。鑑賞者は見つける度に「みつけた!」とつぶやきたくなりますね。
あるはずの物とないはずの物があるマジック
高田安規子・政子《豆本の山》2013年 古本 サイズ可変
高田姉妹は、「スケール(尺度)」をテーマとしていると自ら語っています。今回の展示においては、往時のエピソードや使用方法を大切に、想像力を最大限に発揮しています。2階にある書庫には、現在書籍は残されていません。妖精は、あるはずの書籍の代わりに《豆本》の山を築き、今も昔も使ったことのない《梯子》を小さな洗濯ばさみで作り出しました。大きな本棚に、そっと置かれた「あるはずの物」の再現と「ないはずの物」の創造。それはどちらも小さな世界だからこそ、美しいのだと感じるのではないでしょうか。原寸大ではない「尺度の美」が二人のアーティストの想像力を通して妖精に宿ったのかもしれません。
姫宮の居間に「春夏秋冬」が勢ぞろい
高田安規子・政子《In the Wardrobe》2017年 古着・服飾品、刺繍糸 サイズ可変 pphoto 椎木静寧
姫宮の寝室から居間へ、妖精の魔法は力が衰えません。この居室は1階の小食堂の真上にあたります。四季を散らした小食堂同様、姫宮の居間においても、妖精は季節の彩りでクローゼット染めあげ《In the Wardrobe》を作り出しました。春の花がバッグの裾野に咲き、クローゼットの中のドレスには立体刺繍の秋の葉や、レース編みによる雪の結晶が舞っています。春から冬へめぐる季節を、一つの空間につめこんだ景色は、一年の四季だけでなく、姫宮の成長にともなう変化までも想像もできそうです。
何の変哲もないものに新たな価値を与える力、それが装飾
高田安規子・政子《Jewelry Room》2017年 装身具、宝石箱、テッコ―の壁紙 59.5×68×46cm
姫宮の居間の奥には、火を入れたことがない室内装飾としての暖炉があると知り、高田姉妹はここにおとぎ話に出てきそうな《Jewelry Room》を作りました。邸内のインテリアを参考に、部屋の中にもう一つの部屋を作ったのですが、「暖炉は暖炉」と決め込まない発想の豊かさと、こんなのあったらいいな…という優しい想像ならではの装飾です。これまで妖精の魔法と言ってきましたが、高田姉妹は日常を豊かに変化させる、という魔法を持っているように思います。彼女たちは高価な装飾によって素晴らしい芸術品を作るのではなく、身の回りにあるものに装飾を加えることで「唯一無二」のものへと変容させているのです。彼女たちは言います。「装飾は何の変哲もないものに新たな価値を与える力がある」と。展覧会の会期は2月25日までです。高田姉妹のほかに、山縣良和(writtenafterwards)、ニンケ・コスター、山本麻紀子、コア・ポア、ヴィム・デルヴォア、アラヤー・ラートチャムルーンスックの各氏がそれぞれのオリジナリティにより「今」と向きあった作品を展示しています。今回は座れる椅子もあり、写真も撮影できますので、鑑賞者が五感で「今」を味わうことができます。ワークショップもまだこれから開催される予定です。早春の白金台に足を運んでみてはいかがでしょうか。
展覧会概要
装飾は流転する展チラシ
展覧会名:装飾は流転する 「今」と向きあう7つの方法 Decoration never dies, anyway 会期:2017年11月18日(土)―2018年2月25日(日) 会場:東京都庭園美術館(本館・新館) 東京都港区白金台5-21-9 ハローダイヤル 03-5777-8600 休館日:第2・第4水曜日 開館時間:10:00–18:00 (入館は17:30まで) 観覧料 一般 1,100円(880円) 大学生・専修・各種専門学校 880円(700円) 中学生・高校生 550円(440円) 65歳以上 550円(440円) *( )内団体割引 【参考】東京都庭園美術館 展覧会概要、展覧会図録、プレスリリース
展覧会や歳時記など、芸術全般について観たもの・感じたことを綴ってまいります。好きな言葉:「余白」、「和み」、「うつろい」
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