キンモクセイの風はトイレの思い出? 秋を告げる花・・・たとえその姿は見えなくても。
2015年09月26日
実に覚えのないオスの木です
姿も見せずに悩殺! でもなぜ、トイレを思い出すのか・・・
キンモクセイは、古くからジンチョウゲ・クチナシとともに『三香木』として知られます。原産地中国では「千里先まで届く」と例えられるほど、その芳香だけで道行く人に秋の訪れを知らせることができる花。毎年開花を待つファンがいる一方、なぜか日本では「トイレの匂いがする」という意見が多数! いったいどうして、キンモクセイはトイレを連想させるのでしょうか?
日本ではかつて、くみとり式のトイレ対策にキンモクセイが用いられていました。側に植えたり芳香剤として調合したりと、キンモクセイの強力な良い匂いで不快な匂いをマスキング(覆い隠し)していたのですね。水洗トイレになってからも、昭和のご家庭ではお約束のように芳香剤が設置され、トイレ臭とキンモクセイ臭?の対決ゾーンとなっていました。やがて、日本のトイレ事情は世界のセレブも驚く進化を遂げます。さらに香り製品は悪臭そのものを分解する機能をもち、現在ではハーブや石けんのほのかに香るタイプが主流です。
人間の記憶のうち、もっとも長く残るのは臭覚だといいます。
昔別れた恋人の顔や声は忘れてしまっても、雑踏でその人のつけていた香水にふっと反応してしまうように、自宅のトイレはとっくに「石けんの香り」であっても、キンモクセイの花が咲くと、かつてのなつかしいトイレを思い出してしまう・・・。実際、「キンモクセイはトイレっぽくて嫌」という人の多くは中高年、という報告があるそうです。また、キンモクセイの風を嗅ぐと子供時代のあるシーンがきまって頭に浮かぶ、という方もいらっしゃいます。
思い出のお宅には、キンモクセイの香るトイレがあったでしょうか。なつかしい場面では、キンモクセイが甘い香りを放っていたでしょうか。
日本では実がならないキンモクセイ。その理由とは?
サイっぽいかも
ところで、キンモクセイはたくさんの花を咲かせますが、実がなっているのを見たことがありません。たまたま見落としているのでしょうか?
じつは日本のキンモクセイやギンモクセイは、不完全な雌しべを持つオスの木だけなのだそうです。江戸時代に伝わってから、花つきが良く香りの強い雄株ばかり輸入して挿し木で増やしたためといわれます。レモン色の花が咲く『薄黄木犀(ウスキモクセイ)』は日本原産で、実がなる例もあるようです。
モクセイは英語で『a fragrant olive (香りのあるオリーブ)』。オリーブに似た実なのでしょうか。
デリケートで儚い初恋の花。二度咲いても、天然記念物でも。
三嶋大社のキンモクセイ。1本ですか?
うっとり酔わせる芳香と、小さくて可憐な奥ゆかしい花。咲くと一週間足らずで、それどころか雨や風に当たれば、咲いたとたんでもハラハラ落ちてしまいます。地面には金(オレンジ)や銀(白)の花々が散り敷かれ、儚い初恋のように まだ甘く香っているのです。
いかにも虫に人気がありそうな香りですが、その主成分『γ-デカラクトン』は、意外にもチョウなど多くの昆虫を追い払う作用があるのだとか。誘うのは、一部のハナアブのみ。キンモクセイは誰にでも愛嬌をふりまくわけではないのですね。
大気汚染に敏感で、葉の表面が汚れると花が咲かなかったり香りが弱くなったりする、キンモクセイ。「高度経済成長期の頃はあまり咲いていなかった」とか「梅雨に雨が多い年は(洗われて)よく香る」などともいわれます。葉の成長期にたっぷり水をかけて洗ってあげると、よく花がつくそうです。
近年、花が終わってしばらくしてからまた開花する木が増えつつあり、地球温暖化との関係が噂されています。推定樹齢1200年超えの天然記念物、静岡県・三嶋大社境内にあるウスキモクセイの巨木も、二度咲きすることで知られています。
こちらはギンモクセイ。可憐ですね