「イチョウ並木」黄金色が、モノトーンなオフィス街を輝かせます
2022年11月08日
神宮外苑の銀杏並木
「イチョウ」と読む表記は「銀杏」「公孫樹」があります。旧仮名遣いでは「いてふ」とも書きます。「銀杏」はもう一つ「ギンナン」とも読みます。ちょっと複雑ですが人それぞれの感性で使い方は自由です。
空にむかって高く聳え連なるイチョウ並木は、ビル街に輝きとともに晩秋の佇まいをもたらします。
街路樹といえば「イチョウ」! 数の多さで一番です
東京丸の内ビジネス街
イチョウが地質時代に栄えた植物だ、ということをご存じでしたか? 地球上に生物が誕生し進化していく中で、恐竜とも出会っていたに違いありません。世界各地でイチョウの化石も多く発見されているということです。こんなに歴史が長く生命力の強いイチョウですが、意外なことに現在イチョウ科の木は今生えているイチョウ一種類しかないとのこと。そんなところから「生きた化石」とも呼ばれています。
また、火災にあっても再生する力が強く、成長も速いといわれていることを考えると、イチョウの木が街路樹に多く利用されるようになったのもなるほど、と思えます。
イチョウ並木のスポットは各地にあることでしょう。東京では豊かな広がりの中で、そぞろ歩きをたのしめる神宮外苑が筆頭でしょうか。東京駅から皇居への行幸通りの整然とした美しさ、丸の内のオフィスビル街を縁取って活気をつくるイチョウ並木も素晴らしい景観です。大阪ではなんといっても御堂筋のイチョウ並木でしょう。長さも幅も堂々とした威厳を感じさせます。歴史的景観として市の指定文化財となっており市民の誇りが伝わります。
自然が失われがちな都会ですが、季節を大切にした木々の力が、秋の深まる町並みに風情を作りだす街路樹は嬉しい存在ですね。
晩秋に輝く「銀杏黄葉(いちょうもみじ)」
俳句は十七音で季節を描くために、季節を象徴する「季語」が多く用意されています。イチョウは季節の移り変わりに沿った季語をいくつも持っています。変化に富んだ木だからかもしれませんが、人々がつい気にかけたくなる木ともいえましょう。秋から冬へはとくに色を変え、葉を落とし、散っていくさま、また落ちた葉、そして実となったギンナンまで、それぞれが季語となり競いあうように句が作られています。
〈風も日も村も銀杏の黄葉中〉水田むつみ
村を守るように立つ大きなイチョウの木でしょうか、木が金色に染まって輝く姿が秋の日の穏やかな風とともに目に浮かびます。
〈落暉(らっき)あび銀杏の大樹黄葉降らす〉道部臥牛
照り輝く夕日を浴びるイチョウの大木から次々と舞い落ちる金色の葉の美しさを感じませんか。イチョウの場合「黄葉」と書いて「もみじ」とも読みます。
〈黄落のつづくかぎりの街景色〉飯田蛇笏
「黄落」はイチョウの葉の散るようすを表す季語です。イチョウの木はどれも大きいですよね、「黄落のつづくかぎり」に木の大きさが感じられ、そこにある街の景色が見えてきました。
イチョウの黄葉は11月の深まりとともに進んでいきます。晩秋の空が金色に輝く時季です。はらりと落ち始めるイチョウの木の下を通ったら、形のいい落ち葉を見つけませんか。読みかけの本にはさめば想い出の栞となることでしょう。
「ギンナン」イチョウといえば楽しみはこれです!
鈴なりのギンナン
鼻が曲がりそうに臭くても、楽しみなのがギンナン。あの臭いのもとは実の外側の柔らかい多肉質の部分。木から落ちた実は雨や風にさらされて、次第に腐りあの臭いを発生させます。多肉質の部分を腐らせ、洗い流せば白く固い殻に包まれた核がでてきます。この殻を割って中から出てくるのが緑色の「仁」。これこそがこの季節になると食べたくなる「ギンナン」です。核を取り出したあと水にさらしてアクを抜くのが大切とか。またギンナンの果肉は、かぶれやすいため、馴れない人は素手では触らないようにということです。焼いても茶碗蒸しに入れても美味しいですね。
〈銀杏を焼きてもてなすまだぬくし〉星野立子
〈天匂ふ落ぎんなんをふたつ踏み〉秋元不死男
〈鬼ごつこ銀杏を踏みつかまりぬ〉加藤瑠璃子
自然の中で実ったギンナンを拾い集めて食べる、そこには原始の昔にかえったようなワクワクを感じませんか。都会の中でもこんな経験ができるのは嬉しいことです。イチョウは四季を通して私たちを大いに和ませてくれるありがたい樹木ですね。